藤(夢)
コイントス(銀二夢)
コインが回る。
それをじっと見つめる彼女の真剣な眼を、視界の端に入れてしまったら、
コインを落としかけたなんて、お前は知らないんだろうな。
コイントス
100円硬貨を親指で弾いた。くるくる回って上っていき、落ちてきたと思ったら素早く手の中に。どちらの手からは見えなかった。
「3秒以内に選びな、3、2、1…」
「右っ?!」
銀二はくくっと笑って右手を開けた。
「残念、ハズレだ」
「…ぁあ、どうして当たらないかなぁ…」
銀二は何気ない動作でズボンのポケットに右手を入れ、探し物をする。それから無造作に突っ込んであった煙草の箱から一本取り出してくわえた。
「まあ運がないんだろ」
「嘘だぁ…だってもう5連続ぐらいで外してる」
彼女はじっと銀二に疑いの目を向けた。銀二は内心ではまずいかと思ったがにこりと笑って言った。
「偶然だろ?」
「大体さぁ、銀さんの得意なのばっかりじゃ狡い…
やっぱりなんか別のにしたほうがよかった・・・」
「今日もコイントスで良いって言ったのはお前だぜ?さあ宜しく」
「…煙草、ベランダで吸ってよね」
彼女は首を捻りながらキッチンに向かった。コイントスで決めた事、すなわち今日の夕食をどちらが作るか。
(お前の手料理が食べたいんだからしょうがないだろ)
それぞれのポケットには100円玉が1枚ずつ。最初に投げた硬貨は右手で取った後、一度袖に入れる。彼女が当てたのち、ポケットの煙草を取る代わりに入れたのだった。何気ない動作で彼女はこれっぽっちも気付いてない。しかも煙草の匂いが苦手な彼女の前でそれをくわえれば、必然的に意識はそっちに移る。
「まあほどほどにしとくか」
吸おうと思った煙草を何か思いついたように仕舞う。むっとした彼女も可愛いが、たまにははにかんだ顔も見たい。
「彼女」
振り向く彼女の額に軽くくちづけて。
ほら。
不意打ちに弱いことは知っている。
「手伝うぜ」
今日はキッチンに立つことにした。
終
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