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藤(夢)
JOKER<前>(銀二夢)
本当のジョーカーは誰だろう。
さぁゲームを始めよう。


JOKER 


「ぎーんーさーんっ!」

新聞片手に昼食後のコーヒーと決め込んでいると、彼女の声が響いてきた。靴が地面に乱雑に置かれる音がする。今日は午後の静かなコーヒータイムを諦めた方が良さそうだ。新聞をテーブルに放置して彼女を待つ。すぐ扉が勢いよく開いた。

「お邪魔しますっ」

元気が良いのはいいことだが、しかし。胸にはリボンが踊っていて、ひだの多いスカートには若干のシワが。

「制服ぐらい縫いで来いよ」
「…制服、嫌い?」
「好きだな」

即答するのは本気で制服を咎めているわけでは無いからだ。むしろ可愛いと思っているが、口には出さない。出して変な誤解をされて二度と自分の前で着てくれなくでもなったら最悪だ。

「じゃあ問題無し」

そんな銀二にお構い無しに彼女は黒い鞄を開けて中から何かを捜している。

「見て!赤木さんがくれたんです」

制服姿でどうして赤木の名が出てくるのか疑問に思う。と、彼女は銀二の疑問がわかったのか、或いはただ単に話したいからか、おそらく後者であろうが勝手に話し始めた。

「下校途中にね、赤木さんとたまたま会ったの!で、おやつをおごって頂きまして」

赤木の静かな笑顔を思い出して、それからその隣で笑う彼女を想像して、一瞬いらっとする。
が。

「…妬いて頂けてます?」

満面の笑みを彼女が浮かべるからには顔には出さない。半ば意地だ。

「誰が妬くんだ」
「そういうこと言いますか…」

ちょっとむくれながら彼女は続ける。

「で、これ貰ったんです!」

じゃーんとかわいらしい効果音付きで出されたのは箱。トランプのようだ。

「…まあ赤木はやらないだろうからな」
「頂き物らしく要らないそうで」

シンプルなだけに上品なトランプだ。彼女は箱から丁寧に取り出し、ゆっくりと切っていく。銀二は箱を手に取った、詳しくは無いがおそらく高級品だろう。彼の前で彼女は切った先から1枚2枚…

「下手くそ」
「…うぅ…」

落下していくカードを拾って、手を出すと全部渡された。ため息半分、やる気半分でカードを持った。

「こうやるんだ」

素早い手つきでカードを切っていく、取りこぼす事もなく、プロ顔負けの技。おぉ…と彼女が驚くから調子に乗ってテーブルの上で切り始める。トランプを二束に分けて反らしながら、交互に、よく混じるようにシャッフルしていく。さらには右手を掲げて左手にカードを飛ばしてみせた。

「すごいっ!マジシャンみたい!銀さんカッコイイ!!」

切り終わったトランプの1番上をひいてみる。特に意味もなかったのだが。見た瞬間、自分でも驚いた。それからくくっと笑ってテーブルの上を滑らせた。彼女の元に裏返しで届くように。マジシャンみたいと思った彼女がどんな顔をするか見物だ。

「良いカードだ」

そう言って笑う。
その笑みはまるで。

「…うわっ…ジョーカーだ…」

やけにリアルに描かれていて、彼女は顔をしかめている。俺は本当はそんな人間なんだ。

「良いカード、なの?」
「いや」

ジョーカーを彼女から手渡してもらい、またシャッフルしていく。

「カードの紙質が、さ」

最高級と言っていい、さすが赤木が手に入れたトランプだ。手に馴染み、大きさも切りやすい。

「せっかくだ、何かするか」
「…賭けませんよ?」

非難の眼差しが飛んできて思わず苦笑した。そんなに自分は賭けばかりするイメージなのだろうか。もっとも彼女が負けたら何かしてもらおうと思わないこともなかったのだが。

「賭けた方が面白みが増すだろ?」
「…無理な事じゃない?」
「お前に出来る事にするさ…そうだな…」
「ってどうして私が負けるの前提なんですか?!銀さんが負けたら何してくれるんです?」

しめた、と思った。相手が条件の確認をし始めたら、後は相手がその気になる条件の上で負けなければ良い。

「一週間弁当作ってやるよ」

料理の腕には自信があるからたいしたことない、しかし。彼女にとっては一大事だろう。弁当はおろか手料理自体忙しい身では稀だ。

「嘘?!本当に?!」
「ああ、そのかわりそれ相応の事はしてもらうぜ?」

それ相応の所で悩んでいる、もう一押しすれば落ちるだろう。

「なんなら遅刻しないようにモーニングコールも付けてやる」

ぱっとわかりやすく目が輝く。

「やります!!」

まったく面白いくらい単純だ。後は何のゲームにするかだが。

「…トランプのゲームって結構あるよね…何がいいかな…」
「ポーカーは定番だな」
「却下でお願いします。やだよ、絶対銀さん強そう」

二人でゲームを挙げていく。ポーカー、ブラックジャックから7並べ、大富豪まで。結局。

「シンプルな方が良いかな。じゃあばばぬきは?」

と彼女は自分で自分の首を絞めることになった。
表情や動作で人の心理を巧みに読み取る銀二にとって最高のゲームと言えよう。

「いいぜ?1回勝負だ、条件忘れるなよ」
「…あれ?私が負けたときの条件まだ聞いてない…」

有無を言わさずカードをさっさと配り始める。大丈夫、流石に制服姿の彼女を取って喰いはしない。多分。

「まあお楽しみってとこだ」

釈然としない様子ではあったがまたそのカード捌きに気を取られている。なるほど。確かにマジシャンみたいなものかも知れない。人を欺く為に、時には甘やかな嘘で、時には鮮やかな真実で、自分を偽り、観客を騙す。
しかし、マジシャンとは決定的に違うのは。

(…その結果楽しむのは自分だけってわけだ)

カードを全て配り終わった。ジョーカーがどちらに行ったのかは流石にわからない。もっともどちらに行ったとしても結果は変わらないという自信はあるが。

「1回勝負だね?」
「ああ」

同時にカードを見る、が銀二が見ているのはカードではない。カード越しに彼女を見ている。自分の手札を見たときの彼女の様子を観察するのだ。1秒にも満たない時間で自分のカードはちらりと見た、おそらくジョーカーは彼女が持ってるはず。案の定彼女は一瞬眉をひそめた、銀二はそれを確認したらさもずっとカードを見ていたというように2枚ずつ捨て始める。自分が眉をひそめた事が銀二にばれていないか確認するだろう事は予測済。


(悪いが絶対に負けないぜ?こっちは罠張って観察してんだ、綺麗な蝶が引っかかるのをな)


続く

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あきゅろす。
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