[携帯モード] [URL送信]

藤(夢)
掃除日和(森田夢)
初夏。
窓から入る風はほんのり冷たく、日差しは柔らかく暖かい。暑くもなく、寒くもなく、過ごしやすい新緑の季節。
そんな良いお天気の休日は、まさしく。

「掃除日和だ」
「・・・え?」

思い立ったように、彼女はすくっと立ち上がった。せっかくの日曜日、それも森田も彼女も休みという貴重な日だ。社会人の彼女と、不定期な仕事の森田では、そもそも休日が一緒になることは滅多に無い。一緒に住んでいてもすれ違う毎日だ。本当に貴重なのに、よりによって掃除とは。
絶好のデート日和。買い物、映画、散歩、それでなければ家でのんびり、なんなら布団の中で過ごしたっていい。否、そうしたい、と森田は思っていたが、今、彼女が言った言葉は、森田も彼女も苦手な家事の一つ、だったような気がする。

「あれ、見て」

指差さす方向には白い塊。通称、綿埃。見てみぬふりをしたいが、今日の彼女は一味違った。ぽかぽかの陽気が彼女の心を暖かくしたのだろうか。

「掃除して、いい気分になろ。せっかくこんな晴れてるんだから」
「晴れてるんだから・・・外出とかさ・・・掃除、しなくてもいいだろ?」

森田の顔にありありとめんどくさいという文字が浮かんだ。それを「だめっ」と彼女が一刀両断する。彼女の中では、今日は掃除の日、と決めたらしい。一度決めたら、彼女は頑固だ。そういうところは森田と似ている。

「じゃあ、鉄雄歩いてみて」
「・・・ん?・・・あぁ」

ぼさぼさの髪にスウェット姿のくつろぎモード。当然足元は裸足だ。それで、ぺたぺたとフローリングを歩けば・・・ざらついているのがよく分かる。

「わかったよ・・・」

仕方なく森田は唇を子供のようにとがらせるのだった。


せっせと物を片付ける彼女の傍らで、森田はバケツに水を入れる。どうやら今日は本当に本格的な掃除をするらしい。
森田も、いつものように髪を一つにまとめて、腕をまくる。気合をいれるべくタオルまで巻いた。おーかっこいい、という彼女の言葉を貰って、ようやくやる気がでてくる自分は現金なのかもしれない。苦笑いしながら雑巾をぎゅっと絞る。腕に力がこもって、みるみるうちに雑巾から水分が零れ落ちていく。

「おー、筋肉ある」

横から急につんつんと触れられて、危うくバケツにインするところだった雑巾を持ち直す。

「ば、ばかっ、当たり前だろっ、オレ力仕事とかしてたし」
「ふーん、そんな森田君をお姫様抱っこできる銀さんって、すっごい人だね」

にやにやと人の傷を抉るようなことを言ってくる。生憎と手は雑巾でふさがっていたので何も出来ずに、森田はむすっとしながら網戸を拭き始めた。

「怒った?」
「別にー」

へそをまげたな、と思ったけれど、これ以上言ったら余計怒らせそうなので、彼女は諦めて掃除機を掛けることにした。綿埃も窓からやってきた細かい砂も全て駆逐していく。ざらざらだったのが、ぴかぴかに。森田のおかげで網戸も綺麗になったので、窓から入ってくる風も一層さわやかだ。

「空気が澄んでる気がするね、網戸が綺麗だと」
「だな」
「鉄雄、ありがとう」
「・・・どういたしまして」

バケツに入った水は、汚れを湛えて真っ黒だ。雑巾も同様に染まっている。それを流して、雑巾をすすげば、とりあえず終わり。手を洗って彼女に言う。

「今日は、ここまで」
「え、網戸と掃除機しかしてないよ、まだキッチンとか、水周りとか」

掃除する箇所を列挙していく彼女を、森田はほんのり石鹸の匂いがする手で抱きしめる。

「掃除の時間は終わりにしてくれよ、せっかくの休日なんだから、有意義なこともしたい」
「掃除は有意義だよ」
「まあ・・・そうだけど」
「鉄雄の有意義、ってどんなこと?」

そう聞けば、待ってましたとばかりに森田が口付けを落とす。嫌がるように暴れる彼女。

「だ、めっ、汚いでしょ、掃除してたんだから!」
「よし、じゃあ」

ひょいと抱えあげたのは、さっきからかわれたのの意趣返し。

「風呂浴びよう、それで、今度はオレたちを綺麗にしよう」
「ば、ばかー!!」
「馬鹿でいい」

にこにことする森田に、彼女は言い返せず、結局そのままお風呂で半日過ごすはめになるのであった。それはある意味ではとても有意義だったけれどもすんなり認めることが出来ずに、彼女は真っ赤になった顔でむくれるだけだった。


おしまい


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!