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藤(夢)
情報戦争(巽夢)
※そこはかとなく「子供扱い」の続き
※ヒロインがより年下化してる、かも?


「わぁ、偶然だねっ」
なんて、我ながら随分白々しい。浮かべた笑みだって誰かさんたちに負けず劣らず胡散臭いかも。それでも久しぶりに大好きな人に会えたから、私の表情は全然締まらない。例え、その大好きな人が限りなく渋い顔をしていても、だ。もっとも、サングラスの向こうでどんな目をしているかはわからないけど。
「…彼女」
「今何してるの?お茶?私もいい?」
畳み掛けるように言う。もし巽さんがだめだって言ったら大人しく引き下がるけど、ほんの少しでも話せるなら、隣にいたいのが恋心。巽さんはそのお洒落な喫茶店に1人でいて、コーヒーカップはまだ湯気が立っている。人を待っているのだ。少しぐらい話せる、かな。
「待ち合わせだよ。目立つから座んな」
きっと銀さん達。でも巽さんは仕方ないというふうに溜め息まじりで私に促す。上出来だ、作戦は成功したのだ。
「ありがとう、巽さん!」
「長居はするなよ」
もちろん。私は頷いて、じっと巽さんを見つめる。少しパサパサした長い髪、ほんのり生やした無精髭、優しい瞳はサングラスで見えないけど。無性に懐かしくて、胸の奥がじんとする。期間にしたらそんなに長い間会えてなかったわけではないけど、でも久しぶりな気がして。酷く。
「…会いたかったよ」
ぽつりと寂しいそうに、とは言っても全然演技なんかじゃなく、本心だけど、でも年上の彼には効かなかった。
「こっちは忙しかったからな、彼女のこと考えてる暇もなかったさ」
「ひどいっ!」
憤慨すれば、ニヒルに笑って返される。
「彼女のせいで忙しさ倍増だよ」
「どういう意味ですか!」
コーヒーを飲む巽さんは、大して気にしてなさそうで、なんか悔しい。せっかく安田さんに頼んだのに。今日の打ち合わせの待ち合わせ場所に少し早めに巽さんを呼び出してくれるように、と。そうしてこっそり偶然を装って。最近全然会ってくれなかったら強硬手段だ。でも仕事の前で忙しい最中だから疎まれても仕方ないとは思ってたけど、なんでもないような態度取られるのは釈然としない。これじゃまるで、プライベートみたいな寛ぎようだ。ぴりぴりしてて欲しいわけじゃないけど、何か勘違いしそうで居心地悪い。
「…私も何か頼もうかしら」
せめて皆が来る前ぐらいゆっくりしてやると、冷たい物でも頼もうとしたとき。
「オレは出るよ」
「え?」
すっと立って伝票を細めの指が攫っていく。そのまま私に背を向けてお会計まですたすたと迷い無く歩いていく。
「な、なんでなんで」
「長居はするなって言っただろ?置いていくぞ」
だって今日はここで打ち合わせだって、安田さんに聞いたのに!頭の中でぐるぐると疑問が回っていく。どうして?打ち合わせは?ふと窓の外を見ると、見覚えのある二人と、見覚えの無い若い男の人が話しながら車の前で立っているのが見えた。戸惑っているような安田さんと聞いているのかいないのか、煙草を美味しそうに吸う銀さん、そして所在なさげに立っている若い人。あれが噂の森田さん、かな?お会計中の巽さんを無視して、私はドアを開けて安田さんに向かって走り出した。そういえば、私入ってから何も頼んでないや。と気付いたけれど、もう戻れない。
「ちょ、っと、安田さん!」
「お、彼女!!」
「おう、久しぶりだな、元気だったか」
「はいっ、んー」
銀さんが煙草を持っていないほうの手でわしゃわしゃと私の頭を撫でてくれた。大きくて白い手でかき混ぜられてすごく気持ち良い。違う、流されたら駄目!キッと安田さんに向かって私は犬宜しくきゃんきゃん吼えた。髪を束ねた若者がおろおろして私を見てるのがわかる。挨拶の一つもしたいけど、私は今それ何処ではない。
「じゃない、安田さん!どういうことですか!」
「オレだって知らねぇよ!きちんと言われたとおりにだなっ!」
「んなことだろうと思ったよ、やっさん。どうりでオレだけ少し早いわけだ」
にんまりと後ろから巽さんが私に声を掛けた。
「巽さ・・・」
「でも、結局待ち合わせには変わりないだろ?」
振り向く私の額に軽く口付けて、ちらりと若い男性にキツめの視線を送ったのが、近付いたせいで見えてしまった。今のは、どういう意味だったんだろう?・・・威嚇?・・・牽制?
「・・・わたし、と・・・ってこと・・・?」
「銀さん、さっきので徹夜でまとめたの全部だから、オレ午後オフね」
「わかってる、あんまり彼女に寂しい思いさせるなよ」
答えるようにぽんと軽く銀さんの肩を叩いて、巽さんはまた勝手に歩き出してしまう。私は慌てて銀さんにぺこりとお辞儀して後を着いて行った。私の後ろでは、きっと私と同じように狐に抓まれたような顔して銀さんに聞いている安田さんの声がした。
「巽さん、巽さんってば!」
「そんな大声出さなくても聞こえてるよ」
通りをのんびり歩く巽さんは心なしか嬉しそうに見えるのは、私の心が浮かれているからだけではないはずだ。
「待ち合わせって?」
「んー・・・そうだなぁ・・・」
「私、きちんと今日の打ち合わせ場所、安田さんに聞いたのに」
「で、オレを早めに呼び出した、か」
全部ばれてしまっているのだ、さすがプロだ。巽さんは少し考えて、それからニヤリと口角をあげた最高にかっこいい私の大好きな笑みで言うのだ。

「情報戦でオレに勝てると思うなよ」



「銀さん、彼女、誰なんですか?オレ、巽さんに本気で睨まれたんですけど・・・」
「そのうちわかるさ」
「はぁ・・・そうですか・・・」
「なんでだ!なんでばれたんだ!オレ言ってねーぞ」
「安田さん、落ち着いてっ!」
(・・・そりゃ安田、オレが答えたからだろ、聞かれてもしらばくれるけどな。相変わらず小さくて犬っころみたいなやつだな・・・うん)


終わり


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あきゅろす。
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