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藤(夢)
夏の朝のある出来事(銀&森夢)
朝食には決まってコーヒーを出すことにしている。ほろ苦く、しかし、鼻孔をくすぐる心地よい香りは重たい瞼も不明瞭な思考もクリアにしていく。彼女と森田と三人で暮らしても、それは変わらない。

「おはよう、銀さん」

おう、と返事しながら振り向けば、森田はぼさぼさ頭に苦笑いを貼り付けて、椅子の傍に立っていた。

「どうした?」
「はぁ、それが・・・」

もごもごと呟いて、それから意を決したようにこちらを見た、なぜか、顔が赤い。なんだ、何かオレの顔についてるのか?

「聞いてくださいよ、朝起きたら、Tシャツ、着てなかったんです!」
「・・・は?」
「昨日、暑かったでしょ?脱いじまったみたいで・・・全然覚えてなくて」

もっと重要なことかと思ったオレは、はぁ。それで?と言いたいところをぐっとこらえて、「器用だな」と言うのに留めて置いた。

「全然脱いだの覚えてないんですよー」
「まぁ・・・暑かったからな、昨日も」

森田の寝ぼけた話はさておき。テーブルを見れば朝食の準備は粗方終わってそこに置いてある。後は彼女を起こすだけだ。三人で暮らすようになってからは、朝食も出来るだけ一緒に取るようにしているからだ。

「ですよねー、暑過ぎですよ、この天気・・・」
「異常気象らしいぞ」

森田はコーヒーを口に含み、寝ぼけた頭を起こそうとしていた。と、ちょうど起こしに行こうと思った矢先に彼女がゆらゆらと入ってきた。

「・・・はよう・・・」
「おはよっ・・・んぐぉ?!」

よくわからない奇声を森田がオレの後方で上げて、それから盛大にむせって咳をしているのがわかったが、しかし、あいにくオレはそんな森田を顧みることも出来ずに、ただただじっと彼女を見つめた。

「んぅ・・・?」
「げほ、えふっ」

何がしたいのか彼女の意図が掴めずに、首を少し傾げる。まさか朝から、抱いて欲しいとおねだりしに来たのか?確かに、パジャマの上だけ身に着けて、すらりとした生足に魅惑的な太ももを見せられれば、くらりとくる。一歩歩いて見えた下着は白のようだ。

「・・・白、か」

様子を伺うべくぽつりと声に出して見れば、反応は前からでなく、やっぱり後方の森田から来た。悶絶しているらしい。コーヒーが熱かったのだろう。

「どしたの・・・?」

きょとんとする彼女の反応から、ようやく合点がいった。彼女は気付いてない且つ寝ぼけている。瞬時に選択肢が頭の中を駆け巡る、一、据え膳食わねば男の恥、二、据え膳、よりも朝食とコーヒーが冷めるのは頂けないので、朝食優先、三、とりあえず大人な対応。

「・・・三、かな」
「銀さん・・・なにがー?」
「いや、こっちの話だ、それより」
「はい?」
「朝からごちそうさん」

そう言って微笑んだら、ぽぉっと彼女の顔が赤くなった、それからそれで覚醒したのか、ますます赤くなっていく。

「〜〜〜っ!!!!!」

バタバタバタ、ドタン、それからうわぁぁぁっていう可愛らしい悲鳴が部屋から聞こえてくる。気付いたらしい。

「・・・うわぁ・・・彼女どうしたんだろ・・・」

悶絶から復活した森田が顔を赤くしておろおろしている、別にもっと恥ずかしがるようなことを三人でしているのに、何を照れるようなことがあるんだ、とオレは思うが、この一緒に暮らす若者たちはあまり耐性がないらしく、いちいち反応が可愛らしいのが面白い。

「森田」
「・・・?」

冷静になろうと、森田はコーヒーに口をつけたところだった。きっとまだ脳裏には先程の彼女の姿が焼きついてるに違いないんだろう。そしてオレにはわかった。きっとまたコーヒーでむせるに違いない。

「彼女もなかなか器用だな」

げふっ、とまた咳き込んで、意味が分かった森田は、また悶絶するようにテーブルに沈んでいった。

それから赤い顔した彼女がリビングにやってきたのは、美味しいコーヒーがだいぶ温くなってからだった。


終わり

暑くてヒロインも自分でパジャマのズボンを蹴って脱いでたっていう。
銀さんおかしくてごめんなさい。

実は微妙に実話。
寝ながらシャツを脱いでたのは器用な弟。
寝ながらズボンを脱いだのは私でございます・・・自室で気付いて良かったよ・・・


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