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藤(夢)
朝(森田夢・霧生様リク)
カーテンの隙間から日差しが差し込み、まだ眠る彼女に光が届く。少しだけ身動ぎしても、彼女はまだ起きない。少し前から目が覚めてしまっていたオレは、そっと彼女の髪を梳いては手に取り、口付けた。
「んん・・・」
眩しそうに薄く目を開ける彼女に、おはよう、と小さく声を掛ける。枕元の時計はもう太陽が昇りきったことを示していた、けれど二人の休みにしか味わえないこのゆっくり流れる時間を壊したくなくて、オレはそれ以上何も言わずに髪を撫でた。
「・・・朝?」
「まだ寝てていいよ」
うーん、と唸りながら擦り寄る彼女を愛らしく思いながら抱き寄せる。さらさらとした髪を撫で続ければ気持ちよさそうに笑った。
「起きなきゃ・・・」
「もう少し寝てな」
「いや」
「オレ、彼女の寝顔見てるの好きなのに」
ぴたり、と動きが止まって、それから恥ずかしそうに胸に顔を押し当てる。
「・・・見ないでよ」
「嫌」
きっぱりと断れば、彼女はむくっと起き上がって、「ご飯にする」と呟いて言ってしまった。布団はまだ二度寝するには十分な暖かさだったけれど、隣に居てくれる人はもう部屋にはいない。仕方なく起き出して洗面所で顔を洗う。顔をあげたその先で寝ぼけ眼の彼女と目が合った。
「・・・怖いから、静かに背後に立たないでくれ」
苦笑いしながら言えば、あ、ごめんと彼女は言った。本当は後ろに立ったこともそれが彼女だということも、オレはわかっていたけれど、いつぞやの恐怖体験のせいで条件反射のように身体が一瞬強張る。忘れてしまえ、あんなこと。軽く頭を振って髪を梳かし始める。隣では彼女が顔を洗っている。ぼさぼさの髪は無駄に長くて、切ってしまおうか、と無意識に呟いた。
「だめ!」
顔を洗い終わった彼女が真剣にこちらを見上げてくる、身長差があるから必然的に上目遣いになるその視線が好きだ。
「切っちゃだめ!」
「・・・えっと・・・」
「鉄雄は髪長いのが似合うんだから、切っちゃだめ!」
そう言って後ろにまわって、尻尾のようなまとまった後ろ髪を思い切り掴まれた。引っ張られるのかと身構えたけれど、そうではなく、優しく梳かれた。
「しゃがんで」
「・・・はぁ」
生温い返事とともにしゃがみ込む。適当に結ばれたゴムは外されて、もう一度しっかりと梳く。きっと彼女は大型犬のブラッシングをしている気持ちなんだろうと思う。でもとても気持ちがいい。それから結び直してくれた。
「鉄雄のアイデンティティなんだから、切ったらだめだよ」
「彼女は髪の短いオレは嫌い?」
「もう、鉄雄には長い方が似合うって言ってるの!」
今度こそ本当に髪を引っ張られて、わかった、切らないからと約束した。

後ろを向いていたオレは知らない、彼女がオレの後ろ髪に同じように優しく口付けたことを。


終わり。

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あきゅろす。
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