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藤(庭)
time tripper 1〜4
少しひんやりした風が通り抜け、森田はほっとため息をついた。散々飲んだ酒のせいで火照った身体にはこのくらいがちょうどいい。街灯が瞬き、寝静まった住宅街の中一人森田は歩いていた。

仕事明けの飲み会帰り、普段は歩いて帰るなどとはしないのだが、この日はたまたま色々とついていなかった。

(最初は…赤木さんと平山さんの昔話を…聞いてたんだっけ…?)

酔っ払いの頭で思い出そうとする。ぐにゃりと電柱が曲がった気がするが、軽く頭を振る。

(血を賭ける…なんとか麻雀…だったかな…)

昔話の途中で赤木と平山は危ない雰囲気になり、そのまま近くのホテルへと消えて行った。それを見てしまったら、自分も酷く意識してしまい、銀二に目線を送れば彼からも返事が。その場にいた巽、安田両名から散々からかわれるも良い雰囲気に…と思いきや。

(あー…せっかく久しぶりに銀さんと…)

銀二は宴会途中に懇意の政治家から呼び出しを食らってしまった。がっかりどころではない、舌打ちしたいくらいだ。もちろん安田や巽には笑われて、銀二に置いてきぼりにされた森田はやけ酒をかっくらったわけである。

(頭いて…)

よろめいて思わず近くの塀に手をつく。そのままずるずると身体が落ちた。家はもうすぐだというのに寝たい。

(…そういや…銀さん…の…昔話…聞いて…ない…)

眠りに落ちる前考えたのはそんなことだった。



「へっくしっ!!」

自分の盛大なくしゃみで目が覚めた。森田は鼻を啜って、自分の身体を軽く擦った。朝方はスーツではやはり寒い。

「あ…日が…」

日の出の時刻だったらしい、随分長い間道路で寝ていたようだ。これじゃ風邪ひいても仕方ないかも、苦笑いしながら伸びをする。人は通らず車の音もしない、静かな朝だ。

「帰るか…」

二日酔いもないようで、朝日を浴びたからか、空気がおいしく気分もすっきりしている。もしかすると銀さんが帰っているかもしれない、そう思うと足取りも軽い。

「…あ、れ?」

が。
歩きだして数歩で止まらざるをえなくなった。

「ここ、どこだ?」

昨日、いや日付上では今日の自分は確かに酔っ払っていた。それは間違いない。だが、酔っ払いなりにきちんと家に向かって歩いていたはずだが今の光景はどうだろう。

「どこだろう?」

そこはかとなく古い建物ばかり並んでいて、マンションなどは見られない。空き地もあり田舎のようだ。

「…あ」

携帯があるじゃないか、地図検索すればいいんだ。現代人の森田はスーツから携帯を取り出して開く。

「げ…圏外か…」

よほど田舎なのだろうか。圏外表示で位置情報を送信できず現在の場所が特定できない。

「仕方ない…少し歩くか…」

誰かに会えば場所も聞けるだろうし、あるいは大通りに出ればヒントが見つかるかもしれない。歩き始めた森田だが、その足はまたすぐ止まることとなる。

まず目に入ったのはその白く細い髪だ。格好は汚れていたが、不思議とそれがあっていた。青年はまっすぐ前を見つめてこちらの方向に歩いてくる。人が来た、という喜びよりも森田は違和感と言うべきなのか、奇妙な感覚に包まれていた。

(…誰…?)

知ってる誰かに似ている気がする。誰もいない道路の真ん中につったったまま動けない森田に、特に気にも止めず彼はすれ違った。

「あ、あの!」
「?…何?」

声を掛けてからしまった、と思った。特に考える間もなく身体が動いていた。必死に取り繕う森田。

「い、いや、ちょっと迷子っていうか、道がわからなくてっ…」
「ふぅん…オレも詳しくはないですよ…」

静かな声だった。こちらに向けられた目は深い黒。誰だ、誰かに似ている。いや、誰かなんてわかっている。

「…赤木…さん」

ぽつりと呟いた声が相手にも聞こえたらしい。

「何ですか?」
「へ?あ、あれ?」

彼も赤木という名前なのだろうか。にしては似過ぎてはいないだろうか。もちろん年齢は全然違うが。

「失礼ですが…赤木さん、赤木しげるさんの親戚、とか…?」
「くく、不思議なこと言うね、あんた。オレがアカギ。赤木しげるだ」

続く

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あきゅろす。
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