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藤(鉢)
二人の王の物語(銀森)

※とってもファンタジー
※門番の彼=森田だと思うと幸せになれるはず


絢爛豪華な舞踏会。人々の談笑する声に食欲をそそる豊かな香り。そんな光景に背を向けて、彼は微動だにせず立っていた。綺麗な毛並みの馬車に高貴な人々、皆彼の隣を通り過ぎていく。せめても、と睨み付けるが、この暗さでは届かない。否、明るくても平民の彼の視線や言葉が届くことなんてありはしない。

門番として雇われても結局彼の日常はそう変わる物でもなく、強いて言うなら日々の食糧を買うのに少しばかり余裕ができたとかその程度。向こう側の人にも世界にも決して届かない。
また馬が駆けていった。そっとため息をついてばれないように頭を振る。ずっと直立しているのは想像以上の労力を要するのだ。無理を言って切らなかった長い髪が尻尾のように少し揺れたが、また一人、くだらない舞踏会に来るのを遠くに見て、慌てて居住まいを正した。

(白馬・・・)

何人かの供を引き連れて彼は門を通り抜ける、瞬間、いつものようにきつく睨んでやった。しかし。

(・・・目が、あった?)

眩い館を背景にして門番と目が合うはずないのに、カチリと視線がぶつかった。やばい、と思って慌ててそらそうとするが、白馬に乗った銀髪の壮年がふっと笑ったので、そらすことも出来ずにただ呆けてしまい、気付けば通り過ぎた後だった。

「・・・誰だ、今の・・・」
「白銀の王さ、お前、隣国の王様も知らないのか」

ぽつりと言ったはずなのに、思いのほか大きくなってしまったらしい。門番の交代を告げに来た同僚に呆れられ、こつりと彼の頭を叩いた。適当に頷き返して、兵舎の方へ歩き出す。舞踏会の行われている館とは全く異なる、暗くて薄暗い館だった。

ぼんやりと先ほどの男を思い出す。綺麗な顔立ちだった、壮年の男に綺麗、とは似合わないかもしれないが、とにかく威厳のある王らしい風格を持った男だった。不思議な魅力のある男、自国のいばり散らすばかりの脂ぎった国王などよりも、遥かに王にふさわしい。と、ぼんやりしていたので背後から男が忍び寄ったのにまったく気付かず、気付いた時は口に手を添えられ、庭の植え込みに引きづりこまれていた。慌てて振りほどこうとするも、意外と力があり、簡単に押さえ込まれて、土を舐める羽目になった。

「思ったとおりに活きがいいな」

静かな声だったが、喧騒の中でも彼の耳に届く、凛とした声だった。振り向こうにも押さえ込まれていて、顔が見えない。

「だ、れだっ!」
「さっき会ったろ、オレだよ、あんまり大声出すんじゃねえぞ。抜けてくるの大変だったんだからな」

含み笑いを伴ってゆっくりと拘束を解かれる。土を払い、地面に唾吐いて、顔をあげれば、そこには。

「あ、あんた・・・白銀の・・・」
「知ってて睨み付けてきたのか、大した度胸だ」

いや、知らなかったけど、と心の中で彼は言ったが、しかし、そんなことよりもなぜ自分の目の前に彼がいるか、という事実の方が大きく、本当だったら礼を取り、膝をつけなければいけないことすらすっかり忘れていた。二人のいる場所は死角になっていて、光もあまり届かない。喧騒は聞こえるが、彼らの言葉を遮るほど大きくは無い。

「不景気そうな面だな、門番なんて柄にもないこと、やめちまえよ」
「・・・なんで、あんたがそんなこと言うんだ」

王だと分かっているのに敬語を使わず、礼を失することになったのは、男の雰囲気がそれを咎めるようなものではなく、むしろ、そのまま話すことを望んでいるように思えたからだ。とはいえ、そんなのは後から付けた理屈でしかなく、今の彼にとってみれば白銀の王の視線や挙動に飲まれ、見惚れてしまって、そんなことまで気が回らなかったから、なのかもしれないが。

「一目惚れさ、あんな視線で射抜かれたらたまらねぇよ」

くつくつと笑う姿もやはり絵になる美しさ。暗い中でも王は輝いているようにすら思えた。

「も、申し訳、ありません・・・」

ようやく謝って膝をつけようとすれば、ぐっと腕を引かれる。

「そんなのどうでもいいんだよ、なぁ、オレと来いよ」
「・・・?」

いきなりの申し出にますます混乱する、自分はただの平民で、最近門番に昇格したばかりの、そう隣国の王に目を掛けてもらえるような人間ではないのだ。

「あいにく従者は山といてな、そういうのはいらないんだ」
「・・・オレに・・・何を・・・」

そっと白銀の王は彼に囁いた。

「オレの隣に来い」
「・・・は??」

王の隣と言えば・・・思い当たるのはやはり。

「お妃様?」

ぶっ、と王は噴出した、さっきよりもげらげらと笑っている様子は王などとは言えないようなもっと身近な存在に思えて、ますます彼は魅かれていく。

「そんな趣味はねぇし、妃ならいっぱいいんだよ」

つん、と胸の奥が小さく軋んだが、その意味がわからずに封じ込める。じっと見つめ返せば。

「違うさ、王の隣に立てるのは王だけだ」

言葉を反芻して理解する前に、王は顔をそっと近付ける、その様子は王ではなく、まるで。

「お前はこの国を取れ」

悪魔のようだった。

「この国を取って、オレの隣に立て。そしてこの国や隣国なんていわず、世界を俺たちの物にする」
「なっ・・・」

あまりに現実離れしていて、彼は口をあんぐり開けたまま動けなくなった。この王様は何を言っているんだ、国?世界?オレに簒奪者になれと・・・?

「そ・・・な・・・無理だ・・・」
「無理じゃないさ、オレに出来たんだ、お前にも出来るだろ」
「え・・・?」
「オレには今はそれこそ白銀の王だ、などと大層な名前が付いてるがな、昔は簒奪者って呼ばれてたんだぜ?」
「でも・・・オレは平民で・・・」
「血なんて関係ないさ。王朝だのなんだのは血が先にあったんじゃないんだ、濁った血は国の為にならねぇ」

なぁ、そう前置きして、王はにやりと見惚れるような笑みで言った。

「お前には翼があるんだ、この大地を飛べるだけの翼だ、飛んで見せろよ」

時間切れだ、と呟いて王は喧騒の方へと歩き出した。問い詰める言葉も、引き止める言葉も、浮かばずに、ただ見送ることしか出来なかった。光の中へと帰っていく王を見て、まるで御伽噺のようだったとぼんやりと思う。どうして自分だったのか、なぜ自分にあんな話を・・・疑問は多く湧いてきたが。

「・・・もう一度、会いたい・・・いや、隣に、あんたの隣に行きたい・・・」

王や国なんて飛躍し過ぎて考えられなかったけれども、ただ一つ。あの白銀の王に魅せられたのは事実。どうせ平凡な門番で終わるかもしれないと思っていた自分の人生だ、何をやろうと後悔は無い。だったら。

「・・・上り詰める、あんたのところまで」



これは後に世界にその名を轟かせた二人の王の始まりの物語。





「王サマ、勝手に抜けて、駆け落ちしたかと思った」

サングラスの男が馴れ馴れしく王に言った。

「彼に会ってきたんだろ、門番の。王サマに目をつけられて僥倖かはたまた迷惑か」
「僥倖に決まってんだろ。調べ通りの奴だったが、思った以上に良い男だったよ」

にっと、王に笑いかける。

「何、惚れた?」
「黙れ、ったく。王様にそんな口聞けんのはお前らぐらいだよ。さて」

宛がわれた客室は豪華な作りで、窓の先には先ほどの兵舎が小さく見えた。

「これから忙しくなるな・・・いや、楽しくなるな、かな」


終わり



−−−−−

やっちまった感たっぷりでお届けします。エセファンタジー風味でお送りしました。
門番=森田
白銀の王様=銀さん
サングラスの人=巽さん
で、お願いします。森田の同僚は誰でもいいです、特には考えてないです。
名前出したかったんですけどね、こう思いついたのが銀英かアル戦かで、名前をテツオにしたら多大なる違和感に苛まれて泣く泣く諦めました。

えっと、続きません、よ、多分。

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