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藤(鉢)
終わりと始まりの間で彼はもがく(銀森前提幸鉄)
終わりと始まりの間で彼はもがく



※魔法系のパラレルです
※銀森前提幸鉄です
※銀さんがちょっと悪い人かもしれません






 頬が痛い。先程同居人に殴られ、引っ掛かれした傷がひりひり痛む。学生寮では大概の魔法は禁止だが、回復魔法はある程度なら認められている。使ってもいいのだが、この程度で使うなど森田の矜持が許さない。またここでは攻撃魔法などもってのほか。おかげで二人は取っ組み合うはめになった。そういう喧嘩になったとき、強いのは同居人の平山より森田だ。平山はといえばソファーの上でふて寝をしている。なんで喧嘩になったのかはもう忘れてしまった。この重い沈黙に比べれば些細なことだったはずだ。いつもこの沈黙に対して喧嘩を後悔するがお互い譲れない。2人で暮らし始めて随分経つが、どうもお互い頑固であった。

 重い沈黙を打ち消すように、森田はキッチンに立った。コーヒー、それも思いきり苦い奴をいれて飲もうか、そう思っていつもどおりに作っていく。森田が立った気配を平山は背中で感じているが動かなかった。そのことを森田もわかってはいるが、意識的に考えないように、インスタントのコーヒーを手慣れた様子でいれていく。考えなくてもできる作業、それが今はありがたかった。しかし、だからだろう、身体が慣れ親しんだように勝手に2杯分作ってしまった。

「あ・・・ははっ」

 森田の小さな笑い声を聞いてようやく平山は起き上がった。顔にはほとんど怪我がなく、また痛むところは少ない。おそらく森田が手加減してくれたのだろう。それがまた癇に触る。森田の顔には引っかかれたような跡があるのに。

「・・・んだよ」
「コーヒー、お前の分までいれちまった」
「・・・喧嘩してるんだけど・・・」

 平山は呆れたように笑った。彼はがしがしと頭を掻いて森田をじっと見た。

「・・・顔・・・その・・・」
「まったく・・・ひりひりするんだけど」

森田が笑ってコーヒーを持ってきて手渡す。申し訳なさそうに平山がコーヒーを受け取って一口飲んだ。口内に広がったのは予想よりも遥かに苦く。思わず噴出しそうになるのを一生懸命熱いのも飲み込んだ。

「苦っ!!」
「悪い、少し苦めにしたんだった」
「早く言えよ!!」

ぱたぱたと砂糖を取りに行く平山。

「森田は?」
「もう入れた」
「オレのも入れろよ・・・」

苦いコーヒーで気分を紛らわそうと思ったけれど、二杯作ったと気づいたときにそれはやめることにした。今は甘いコーヒーが飲みたい気分だった。講義もなく、宿題も粗方済ませた日曜の晴れた午後。

「なんかさ、平和って感じするのにな・・・」
「・・・」

ごくりと甘いコーヒーを飲み干した。失敗した、そう森田は思った。やはり苦いコーヒーにしておくべきだったのだ。たまらなく嫌な気分だ。砂糖の粒が溶けていなかったのか、口の中で微かにざらついているのがまた不快である。

「・・・すぐそこの国境では戦争中、か・・・」
「・・・ごめん、森田」
「いや」

言われてとある人物の顔を思い浮かべる。学生からは鬼教官と呼ばれ、人間からは悪魔と呼ばれる平井銀二は、現在隣国との国境線に赴いている。赴いているとは言っても視認できるくらい近く、もし何かあればきっとここでも気付くことになるだろう。
 平井銀二は森田にとって一番大切な人だ。この学校で一、二を争うぐらい強い魔力を持っているが、心配するのは当然である。

「・・・銀さんなら大丈夫。あんなに強いし、銀王ってあだ名あるくらいだし」
「はいはい、また森田の惚気か」

平山はニヤニヤ笑って、猫舌だからだろうかコーヒーをまだのんびり飲んでいる。

「惚気じゃないっ!」
「惚気だって。ま、今回は赤木さんも一緒だから大丈夫」

森田は目を細めて、にやりと笑った。

「お前こそそれ惚気?」
「なっ!!!!!」
「おっと、平山のはまだ片想い中だったか」
「黙れ!!殴るぞ!」
「いいさ、いつでも相手になってやる」

平山が真っ赤になって森田に掴みかかろうとしたとき、唐突にそれは起きた。
 空が一瞬にして灰色に変わり、滝のような土砂振りの雨が一瞬で窓の外を埋め尽くす。かと思えば、水は全て地にたどり着き、雲の合間を金色の閃光が駆け抜けた。耳をつんざくような轟音とともに、攻撃呪文が彼方で炸裂するのが見える。戦闘が開始されたのだ。安全であることがわかっているから、好奇心だけで2人はベランダに出た。

「こんな広範囲まで影響あるのか・・・」
「・・・銀さん」

この地域には防御呪文が発動しているため、実際の被害が出ることはないにもかかわらず、ベランダから見た上空の空は相変わらず雷光が走っていた。
 あの激しい攻撃呪文は銀二のものなのだろうか、いや、森田にはおそらくあれが銀二のものであることが分かっていた。
 と、そのとき、稲光がすごい勢いで上空を通り、なぜか森田たちのいる寮の後方に落ちた。風雷に乗った攻撃呪文は多少威力は下がっているものの、それでも防御壁と建物を一棟燃やすには充分だった。

「そんな!!」
「行こう、平山っ!!」

防御壁が破れたのを見ていた森田は、玄関に出るのももどかしいといったようにベランダから飛び降りた。重力に引っ張られてる途中で呪文を詠唱すれば、魔法で翼が編まれていく。集中力を研ぎ澄ませれば、あっという間に力の束縛から解き放たれ、か細いぐらいの薄い、しかしどこまでも純白な翼は天を飛翔し始めた。

「おい、こら、森田っ!!」

舌打ちして平山は走り出した。実技だったら森田の方が遥かに優秀だ、回復から補助、攻撃まで、何でも使える。あんな簡単に翼を編める人物はそうたくさんいるものではない。平山は地道に走り続けた。寮の仲間も何事かと顔をあわせている。寮内や学校内に非常事態を告げるサイレンが鳴り響く。現状が把握できるまで寮内の学生たちはその場を動くなという言葉が繰り返された。平山はそれを無視して走り続けた。

「っ、はぁ・・・は・・・森田、いったい・・・」
「・・・攻撃、された・・・?」

半壊した建物は古く機械的な研究所のような建物だった。一瞬で黒焦げにしたのか、中から這い出てきた人物は見分けがつかないほど黒い火傷を負っていた。

「・・・!!」
「回復呪文だ、手伝え!」

思わず平山が目を伏せそうになるところを、森田は叱咤し呪文を詠唱し始める。その様子を見て、平山もまだ激しく鐘を打っている鼓動を深呼吸して収めながら、手を差し出し詠唱しだした。



「・・・1人逃したと思ったら・・・」



飛翔と回復を続けて行ったことで、だいぶ魔力が落ちている森田に、後ろからよく知っている声が響いた。振り返りたくない、そんなはずはない、そう森田は思いながら、しかし、回復させた人物を平山に任せ振り向いた森田の目に映ったのは、やはりよく知っている、いや、愛している大切な人だった。

「銀・・・さん・・・?なんで・・・?」

ククッ、と銀二は笑った。いつもよりずっと冷たい笑い方だと思った。

「そこの建物にスパイが紛れ込んでてな、学校でも一、二を争う2人の教官が出て行ったら、動きが活発になるだろ?それを狙ったわけさ」
「だからって、こんなやり方!皆混乱してるし、それにこの建物にいる人が全員スパイってわけじゃないでしょう!!」
「そうでもないのさ、前々からここでは怪しい集会が行われていたし。それに何より、上の命令なんでね」

銀二は小さく素早く呪文を呟く、と、回復させた人物は光に包まれさらさらと光の粒子に変わっていった。

「っ!!平井教官!!」
「そこの研究所に多く出入りしていたものは皆殺しにせよとのお達しなんでね」
「そんな!間違ってる!銀さん、あんたっ!!」
「あぁ、その通り。間違ってるだろうさ。それでも今はこうやるしかないんだ、森田」

黒い円が銀二の下に現れた、ゆっくりそこに落下して消えていく。

「森田、お前にもわかるさ、いずれな」
「銀さん、待って!まだ話はっ!」

銀二のいたところに駆け寄るももうそこには何もなかった。ひたすら手を握り締める、自分にできることはないのか。

「・・・す」
「え?森田、おいっ」
「戻す、中には本当に潔白な人物がいたかも知れない。全員殺すなんてばかげてる!」

建物に近づき手を押し当て平山の知らない呪文を唱えていく。一度だけ、銀二に戯れで習った最上級の禁忌の呪文。指定範囲内の時間を巻き戻すという言葉にすれば簡単な呪文だ。しかし、時間に関する呪文は古くから議論されていて取り扱うことは容易ではない。

「戻すってまさか・・・時間か?!やめろっ、そんな呪文・・・しかも魔力がそんなに減った状態でできるわけないだろっ!」

森田はひたすら呪文を唱え続ける。額には汗がにじみ、腕は震えているにも関わらず。

「森田!・・・っ、やめろ、失敗したらさっきの爆発の比じゃないぞっ!巻き添えだって食らうんだ!!」
「っ!!」

それでもやらなくてはっ、その思いだけで少しずつ壊れる前の建物のイメージが編まれていく、が。

「森田!だめだっ!」
「それ以上やるなっ」
「森田!」

所詮学生の魔力はたかが知れている。平山の叫ぶ声を最後に聞きながら、森田の意識はそこで途切れた。








視界が霞み、身体が鉛のように重い。やりすぎた、分不相応の呪文を詠唱しようとしたのだ、この程度で済んでよかったと言ったほうが正しいかもしれない。森田は泣きそうになって腕で顔を隠した。

「森田、起きたのか」
「・・・平山・・・」

あの後、平山は倒れた森田を家に連れて帰り、自分の魔力をひたすら注ぎこんだ。相当魔力を消費してしまったが、あんな禁忌の呪文を唱えようとしたこの同居人よりは遥かにマシな様態だ。

「・・・平山・・・」
「・・・うん・・・」

森田の声が震えていた。おそらく泣いているのだろう。

「・・・オレ、あの人・・・信じられなくなりそうだ・・・」

いつものしっかりした彼の口調からは微塵も考えられないか細い声に、平山は何も言えなくなった。どうしていいかわからずに平山は泣き続ける森田をじっと見ていた。ただ1つだけを心にずっと思っていた、オレがあの人だったら彼を泣かせたりはしないのに、と。


2人の関係がただの同居人から少し変わったことを、はじめに自覚したのは平山だった。









なんだこれ・・・
元ネタは私の今朝の夢でした。
とっても面白かったので、キャストを全部変えて文字にしました。
(ちなみに私は森田ポジションでした)
男が3人と私!これぞまさしく夢!!
いや・・・しかしなんだこれはといわざるを得ないです、すみません。


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あきゅろす。
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