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藤(鉢)
タスポ(銀森)
買い物を二人でする、そのために。
オレは時代の流れに小さく逆らってみる。













タスポと鍋













煙草が吸いたい。
ポケットに手を入れて、握っては開き。
そうやってやり過ごす。

あいにくと煙草を切らしてしまっていた。
仕事には影響はなかっただろうが、なんとも口寂しい。
もっともヘビースモーカーではないと思っていたのだがしかし。

「だいぶ寒くなってきたなぁ」

もう冬で日が沈むのも大分早い。

「…歩きたばこは駄目ですよ?」

隣の銀二は胸ポケットから煙草を出そうとしている。

「わかってる」

隣で吸われたら自分も吸いたくなるだろう。

先程から何度も自販機の前を通っては恨めしげに見つめる。
どこもタスポが無いと購入出来ない。
吸うか吸わないかは本人の意志次第じゃないか、そう思い足元の石を軽く蹴飛ばす。

「煙草切らしてんだろ」

…やはりばれていた。
笑いを含んだ声で言われる。

「…なんで?」

なんでわかったと聞いてみる。
無駄な事だとわかっていても知りたくなった。
自分はなんてくだらない事を聞いてるんだ。

「さっきから自販機ばかり見てんだろ?
それに俺が煙草を出そうとしたら止めたじゃねぇか。
もっと言えば仕事の時から吸ってなかったな」

完璧にばれていて舌を巻く。
さすが銀王、洞察力がすごい、と思ったら。

「…お前の事ばっかり見てたらそりゃ気付くさ」

などと言うものだから。

にやりと笑ってる銀二と対称的に、森田は恥ずかしくなって睨みつけた。
一体この人はどこまで本気でこんな事を言うのか、時々ひねた見方をしたくなる。

「どうした?」
「…別に」

近所のスーパーまで来た。
ここならば確か自分の好みの煙草を売ってたはずだ。

「ちょっと買って来ます」
「あぁ。いや…俺も行こう」

二人してスーパーに入る。
確か、ここのスーパーはレジの店員に言えば煙草を一つから買えるはず。
特に他に買うものも思いつかなかったのだが、せっかくだから順路通りにまわってレジを目指して進む。
が。

「…って何持ってるんですか?!」

カゴは?と暗に問う。

「大根と長ネギと生姜だが?」

冷静に返答された。
聞いた事はそういうことではないのに。

「カゴ取って来ますよ!」
「持てるさ、今の所は」

今の所というからにはまだ買う可能性があるのだろう、ここはやはり取って来た方が良い。
森田はそう判断して引き返そうと思った。

「森田」

呼び止められる。

「はい?」

顎で指された方向に、カゴが積んであった。

「…あった」
「だろ?」

にやりとした不敵な表情と大根の葉っぱと長ネギが笑えるほどミスマッチで、森田は思わず吹き出した。

「…なんだ」
「いえ。…スーツに大根でその顔されてもね」
「家庭的な男はモテるんだぞ」
「はいはい」

カゴに野菜を入れ、持とうとすると横から銀二に奪われた。

「持ちますよ」
「いや良いさ」

森田は苦笑した、多分知らない間にカゴの中身が増えているに違いない。
もっともお金は銀二が払うのだから問題は無いのだけれど。

「…っていうか今晩確かビーフシチューって言ってませんでした?」
「予定変更だ、鍋にするぞ」
「じゃあ白身魚も何か買いましょう」
「白菜は家にあったか」
「と思います」

そんなこんなでレジに着く頃はカゴは大分重くなっていた。
レジはバイトの女の子で愛想良く「こんばんは、いらっしゃいませ〜」と言われた。
ここのスーパーではしょっちゅう買い物をするので、思わずこちらも笑顔になる。

商品を一点ずつ読み上げる間、減っていくカゴの中を見つめていた、その時ふと気が付いた。

「鍋用の調味料、家にありましたっけ?」
「あぁ、確かだしもぽんずもあったはずだ」

それならよかったと安心したら、読み上げが終わった。
その時銀二に軽く肩を叩かれた。

「はい?」
「お前何しに来たんだ?」

含み笑いまでされている。
何って鍋の材料買いに…いや、あれ?・・・。

「すみませんっ!!煙草下さいっ!!」

勢いよく言ったらバイトにはぽかんとされ、銀さんには笑われた。
恥ずかしくなって横目で銀二を一睨みして、苦笑しながら告げる。

「ケントのマイルドをワンカートンで下さい」
「俺はこれ、このマルボロをワンカートン」

銀二は胸ポケットから煙草のパッケージを出して見せた、
こういうスーパーでは実際にパッケージを見せたほうが早いときもあるのだ。
そうしてようやくお目当てのものを手に入れることが出来た。
ビニール袋を二枚貰って、買い物を半分に分ける。

「タスポ作らなくて良いや」

帰り道、二人で並んで歩く。
街頭が夜道を照らし、人も少なく。
自販機の光はまばゆいけれど。

「いちいち買いに来るのも悪くないさ」
「そうですよね」

今夜は鍋にして、明日ビーフシチューにしよう。



久しぶりの一服は家に着いてから。









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