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藤(学舎)
最悪な出会いで幕はあけた(開一)
最悪な出会いで出会った彼と、これから仲良くなるなんて出来るはずが無い。

別にしたいわけでもないからいいけど。












最悪な出会いで幕はあけた









似合わないと思った。
鏡の中の自分は苛立ちを抑え切れてなく、むすっとした顔で学ランのボタンを留めている。
本当だったらブレザーを着るはずだったのに。

「…くそっ、あの馬鹿親父」

顔に似合わない罵詈雑言を呟いて、鏡の前から立ち去った。
公立の有名進学校に合格確実だったのに、タイミングの悪い親の転勤のせいで、急遽受けたのが。

「…入学式なぞ面倒だ…」

今日から通う高校だった。その私立の学園は上の特Aと呼ばれる優秀なクラスから、
問題児の集団と悪名高いFクラスまである。
しかも最悪な事に募集を受け付けたのはこのFクラスだ。

玄関を乱暴に開けて、学校に向かって歩き出す。

しかもバス通学ときた。
最悪だ。
彼、一条はそう思った。

この街自体好きになれそうにない。
バスに揺られながら景色をぼんやりと眺めるが、思い出すのは。

(…ムカつくっ…!!)

引っ越して来た時に早速喧嘩した相手の顔だ。
なんて事は無い事だったと思い返せば思わない事も…。

(いや、やっぱりムカつくっ…!)




重いビニール袋を持って、一条はただただ慣れない道を歩いていた。
引越し後の食料を一生懸命運んでいるのだ。

重い。
ビニールの取ってがきつく手に食い込む。
2リットルのペットボトルも何本か入っているから当然だろう。
この分じゃ、ビニール袋は破けるかもしれない、そう思って、力を入れて持ち上げたとき、
自分自身の昼食と思って買ったパンが零れ落ちた。

道路の真ん中に転がったそれを舌打ちして拾おうとする、が、その前に、
まずこの荷物を置かなければいけない。
しかたなくアスファルトに荷物をいくつか置いて、パンを取ろうとした矢先。

「・・・なっ!おいこら!!!」

目の前を猛スピードで自転車が通り過ぎていく、その貴重な昼食の上を遠慮無く通って。
パンがぺちゃんこになったのを見た瞬間、疲労とストレスで一条は爆発した。

向こうもおかしいな、と思ったのだろうか、キキーっと音を立てて止まり始める。
すぐさま飲みかけの水のペットボトルを取り出して、口を弛め、精一杯の力で投げつけてやった。

「うわっ!!!ちべたっ!!何すんだよっ!!!」

アスファルトに水飛沫が上がり、空になったペットボトルが転がっていく。
それは頬に傷のある同じ年頃の少年だった。

「何すんだ?ふざけるな、それはこっちの台詞だ!!!貴重な昼食を!!」

とても食べられたものではなくなったパンを見せ付け、ついでに押し付ける。
少年は怒った顔から眉を寄せて、「もしかして、今コレ踏んだ?」などと暢気に聞いてきた。

「もしかしなくてもお前が踏んだんだ!!弁償しろよ!!それに飲みかけの水までなくなったじゃないか!!」
「悪かった・・・けど、水は知らないっていうか水をかけること無いだろっ?!」

まったく正論だが、それでは腹の虫が治まらなかったのでつい、だ。
コーラでないだけありがたいと思え。

「黙れ!!お前が悪いんだ、お詫びにそれを貸せ」

実行犯である自転車を指差す。

「駄目!それは!!パンのお詫びはする。けどオレ急いでるから!!」

本当はなら水を掛けられたことでもっと怒って良いはずなのに、
なぜかこの少年はそれについては言及せず、本気でパンをつぶして悪いと思っているようだった。



それがむかつく。



「・・・もういいっ!」



そう言って、重い荷物で歩き始めた。

ああいう男とは絶対に仲良く出来ない、そう思いながら。










つまらない入学式を終え、クラスに入って自分の席につく。
確か、出席番号順でいだから・・・窓際か。

一つ前の席にはもう一人座っていて、なぜか寝ていた。
顔は伏せられていて見えないが、白髪が印象的だと思った。

ふと後ろを振り返ると。

「ああっ!!」

お互い指を指して叫んだ。
同じクラスでしかも席が前後でまさかこの前の男子と一緒になるとは。

そのうえ第一印象は最悪ときている。

一条は頭を抱え掛けた。
せっかく猫を被りに被ってこの学校で一番の地位に上り詰めてやろうと思ったのに。

「お前、一条っていうんだな。悪かったな」
「知らん」
「よろしく。あ、今度の昼食にパン奢るよ」
「それはもうどうでもいいから、黙れ」

「そこ。黙らないと痛い目見るぜ?」

にやりと担任の男が笑う。






波乱の高校生活が幕を開けた。






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