sweet smile
※この小説は、STAND UP!!の番外編になります(単体で読めるとは思います…多分(笑))
笑って、笑って…
クリームよりもっと甘く、
幸せで満たして、とろけるくらい…。
《sweet smile》
学生の頃から10年も付き合っていた栄口と別れた。きっかけは栄口の浮気。そうさせてしまったのは俺。お互いに不安を抱え擦れ違った。俺は栄口を捕らえてしまってる気がして…年齢を重ねれば重ねるほど、“結婚”という単語に縛られ…俺はいいが栄口は可愛らしい女の子と結婚した方が幸せなんじゃないかと思ったのだ。栄口は栄口で、大切にされることが怖かったらしい。男であるが故に、俺が出世する姿を見て置いてかれるのではと不安だったのだと…先を歩いていく俺に、知らない部分があるのでは、と寂しかったらしい。相手を想っているのに擦れ違っていた。しかし、当時の俺達は傷付け傷付き合い、別れの道を選んだのだ。
栄口は会社の女の子と付き合いだし、俺は歯止めを無くし遊び狂っているところを阿部に見つかり…慰める相手と酒を理由に身体を繋げた。バカな奴と酷くすればいいのに、受け入れる側をしたことのない俺を優しく扱い、学生時代から水谷が好きだったと甘く告白され…心の拠り所を失っていた俺を優しく包み込んでくれた。そんな阿部に絆され、惹かれ、不安定だった気持ちを整理しようと付き合い出したというのに、彼女と別れたらしい栄口が現れ俺をまだ好きだと言った。間に挟まれ、自分を見失い心を閉ざしかけた俺を心配した阿部は、俺の知らぬ間に思わぬ提案を栄口に投げかけ、俺達は落ち着くことが出来たのだった。
「水谷、3日の朝か昼には帰ってくるんだよね?」
「うん、そのつもりだよ」
「いいのか、本当に…1日半くらいしか実家にいねぇとか…」
「いーのいーの、どーせ父さんと母さんがイチャイチャしてんの見せられるだけだし…未だに新婚みたいなノリでやんなるよ。どうせ姉ちゃんも彼氏のノロケばっかだろうし…居辛い」
「それは確かに…キツいね」
「だろー!?あ、栄口と阿部も同じくらいに帰ってくんでしょ?」
「うん、4日は水谷の誕生日だからディナー行くしね」
「だな」
「ははっ、俺はケーキさえ食えたら家でディナーでもいいのに」
「えー、誕生日くらい奮発させろよー」
「…」
「あはは、2人にお任せしますよ」
「まっかせろ!」
「んじゃ、明後日ね、いってきます」
「ん、俺達もいってきます、明後日な」
「気ぃつけろよ」
阿部と栄口と別れて、人の少ない住宅地を歩き出す。元旦の昼…もうすぐ夕方だという時刻だ。皆家でゆっくりしてるか、初詣にでも行ってるだろう。俺達は年明けと共に初詣を済ませ、帰宅し一眠りして今、家を出た。同じ家を、だ。
3人で暮らす部屋。同居じゃなくて同棲。そう、今俺は阿部と栄口、2人と付き合っている。まさかこんなことになるとは俺も思ってなかったよ。でも阿部が、板挟みで苦しむ俺をなんとかしてやりたいって…栄口も大切な友人だからいがみ合うのはやだって…そう言って栄口と2人話し合って腹決めてきて、あと俺が受け入れるかどうかだって答えを求めてきた。
正直、何考えてんのって思ったし、俺が身を引いた最初の理由であった将来の為のことがなんの解決もしてなかったけど…でも嬉しかった。2人が俺を想って手を差し出してくれたこと。2人が俺に笑いかけてくれたこと。だから、その手を取ったんだ。
「さむ…ッ」
ぐるぐる巻かれたマフラーに顔を埋める。いつも3人でいるから、こうやって1人になると寒さが増す気がした。それでも心は暖かい。愛する人達が自分の誕生日を祝ってくれるというのだ。嬉しくないわけがない。
どこの店に連れて行ってくれるのだろうか、と今から楽しみで…。
「会いたい、な…」
たった今別れたばかりなのに、もうあの2人のこと考えてしまう。どこまで貪欲なのかと呆れもするが、それだけ2人のことが大切なのだと再確認出来た。
「やっぱり、家で3人だけで祝いたいな…」
他の誰にも邪魔されない空間で2人に甘えたい。…なんて、どこの乙女か。20代も後半に差し掛かった大人の男が考えることじゃないだろう。そう思うと一気に恥ずかしくなって…
「(あぁもう、早く帰ろう)」
恥ずかしさを紛らわせるように、もたついていた足を大きく踏み出し、実家へと急ぐことにしたのだった。
実家に帰れば暖かく迎えられた。手作りおせちのあとに父さんとお酒を飲んだ。ワイン好きの父さんにロゼを土産にして正解。嬉しそうに飲む姿に、なんだか少し涙が出そうになった。家族で過ごす時間が穏やかに感じるのは、大人になったからだろうか…。
翌日は家族で初詣。嬉しそうに笑う母さんに甘酒を買ってやった。と、そこでメールが届き、携帯を開いて固まった。
メールは阿部からで、阿部も栄口も4日の夕方まで用事が出来たというものだった。子供じゃないから駄々をこねることはしないが、でもやっぱり…4日は一日中2人と居たかったなと思ったり。我が儘は言えない。だから了解したことと、自分もそれまで実家にいることを伝え、携帯をしまう。寂しいが仕方ない。家族に帰るのを1日延期したと伝えれば、1日早いけど明日、誕生日を祝ってくれることになった。
次の日は1日姉とデート。買い物に付き合わされ、彼氏の惚気を聞かされ大変だった。夜は言っていた通り、お祝いということで家族でディナー。美味しいご馳走に満足した筈だった。
でも、やっぱり…寂しいのだ。
物足りない。2人の声が聞きたくてたまらない。思わず携帯を手にしたけど、夜も更けていき遅い時間になった今、電話をかける勇気がなくて、その手を下ろした。
その時だった。マナーモードにしていたソレが手の中で震える。慌てて取ると重なる2つの声。
『『ハッピーバースデー、文貴』』
耳を柔らかく刺激する優しい声。気付けば0時…1月4日になっていた。
「阿部、栄口…」
『水谷、外見てごらん』
電話越しの栄口の言葉に、カーテンをあける。2階の部屋から見下ろした先には、1つの携帯に寄り添って立ち、こちらに手を振る2人の愛しい人。
『家族の人起こしちゃわりーから、この距離だけど…』
そう言う阿部の声にもどかしくなって、窓ガラスにペタリと手の平をひっつける。少しでも近くに感じたいんだ。
『おい、そんな顔すんなよ…抱き締めたくなる』
情事の時のような甘ったるい阿部の声が耳をくすぐる。
『そうだよ、俺達我慢してんだから』
栄口も、いつもより男っぽく言葉を紡いだ。2人の声だけでこんなにも体が熱くなる。欲しくなる。泣きたくなる。今すぐにでも出ていけたなら…。でも気を使ってくれてる2人のために我慢。この距離が、恨めしいよ。
『はは…ラプンツェル、みたいだね』
「あんだけ髪を伸ばすのにどんだけここに籠もらせるつもりだよ」
拗ねたように言えば、2人は楽しげに笑った。
『冗談、夕方までには迎えに行くから待ってろ』
「うん…待ってる。早く来いよな」
『おい、この姫すげーキツいぞ』
『あっはは!!ホントだ』
「誰が姫だよ、誰が!つかラプンツェルは最初姫じゃねぇし」
『どーでもいい』
さっきまでの寂しさが嘘みたいに心が満たされる。幸せな夢が見れそうだ。
『さ、そろそろ寝ろよ』
「うん、2人とも気をつけて帰れよな」
『ありがとう!じゃ…もう1回…』
『『誕生日おめでとう文貴、良い夢を…』』
「ありがとう…おやすみ、勇人、隆也…」
滅多に呼ばない名前で囁いて…2人が歩き出したのを見送ってカーテンを閉める。布団に潜り込んで幸せを噛みしめ、耳に残る優しい2つの声に誘われるように眠りについた。見たのは優しい優しい夢…2人と、笑い合う夢だった。
目覚めて家族に祝いの言葉を貰い、再び姉に連れ出された。誕生日プレゼントを買ってやる、ということらしい。彼氏のとこ行かないのかと言ったけど、弟の誕生日優先だとか…いい歳してブラコンにも程がある。
そうして街中を歩いている時だった。ふと、視界の端を見慣れたツンツン頭が横切った気がした。見失いかけたそれを必死に探し、目を向ければそこにはやっぱり阿部が居た。
女の子と、一緒に。
顔は見えないけど、茶色のふわふわした髪の清楚そうな女の子。その子にとっても優しく、楽しそうに笑いかける阿部。
胸が、痛かった。
親戚とか、そういうのかもしれない。
でも2人の距離は近い。
偶然会った前の会社の子?
でもすごく親しげ。
よろけた彼女の腕を阿部が掴む。手にはスーパーの袋が下げられていた。
なんで、どうして…
心がざわつく。
用事って、これ?もしかして、栄口も女の子とデート?
勘違いだ、勘違いであってくれ。
「文貴?」
姉ちゃんに呼ばれてハッとした。今自分は何を考えていた?愛しい人達を疑うような、そんな酷いことを考えていなかっただろうか。いくら、前のことがトラウマになっていたとしても、してはいけないことだ。汚い心を持つ自分に、嫌悪感が湧いた。
「文貴、大丈夫?顔、真っ青よ?」
「大丈夫、だよ…ごめん立ち止まって…行こう」
心配する姉に無理やり笑いかけ足を進めた。けれども、その後もずっと上の空な俺を見てられなかったらしい姉ちゃんに引き摺られて、昼過ぎには家に連れて帰られたのだった。
することもなく、する気もなく、ただゴロンとベッドに寝転がる。モヤモヤとざわつく胸の奥。わかってる…2人は俺のこと裏切らないって。でも、昔の不安が出てくるんだ。2人は、女の子と結婚した方が幸せなんじゃないかって。
「(ダメだ…こんな気持ちのまま2人に会えねーや)」
せっかくの誕生日なのに…と弱い自分に苦笑した。悪いなと思いつつ2人にメール。疲れが出て具合が良くないから、もう1泊する、と…もしレストランを予約してたらごめん、って。すぐさまどうしたの、大丈夫かと返事が来て、心配させてることに罪悪感を抱く。大丈夫、ちょっと体がダルいだけ、とごまかして、もう会話をするのも億劫になり携帯の電源を落とした。そして目を瞑り自分に言い聞かせる。
“大丈夫、明日にはいつも通り笑える”と…。
あのまま眠ってしまったらしい俺は、いつかのように頬に2つの温もりを感じ目を覚ました。目を開ければ2人の心配そうな顔。
「あ、べ…さかえぐ、ち?」
「大丈夫か?」
「なんで、ここにッ」
「あの後メールしても電話しても出ないから来たんだよ…そんなに具合悪いの?」
優しく撫でる温かい手に、こらえていたものが溢れ出す。ボロっと零れ落ちた涙は次々と流れ始めた。
「ごめ…体は、大丈夫…ちょっと…心が弱ってた、だけ」
こんなに優しい2人に申し訳なくて…涙と一緒に零れるのは謝罪の言葉。
「ごめん…ごめんな…ッ」
「水谷…」
困惑した栄口の声に更に胸が痛み、もう一度謝ろうと口を開いたその時だ。バチコーンッ…という音と共に額に感じた衝撃。
「いだぁッ!?」
思わず声を上げて額を押さえる。見ればムスッとした阿部の手が目の前にあった。どうやらデコピンされたらしい。
「ちょっと痛いじゃん阿部!!何すんの!!流れおかしいじゃん、空気読んで空気!!」
珍しくセンチメンタル文貴だったのに何すんだコイツ…と噛み付けば、再び同じ手がデコピンの形に構えられたので、慌てて額を庇った。
「うるっせぇんだよクソレ!!」
「クソレ!?」
「また懐かしい呼び方して…」
呆れる栄口を無視して阿部は口を開く。
「それだけ叫べたら元気だろ、帰んぞ」
「ちょッ、何勝手に…」
「勝手はお前だろうが、またなんか1人で考え込んで…馬鹿が」
「う…ひどッ…」
「そうだよ馬鹿だよ」
「栄口まで!?」
「水谷の悪い癖。何でもないふりして1人で溜め込んで爆発する」
「うぅ…」
「話し聞いてやっから…帰るぞ、俺達ん家に」
「えッ…ムリムリムリムリ」
「あ゛ぁ?家帰ってもらわなきゃ困んだよ」
「いや、そっちじゃなくて…」
話しするなんて絶対無理。だってこれって結局はただの嫉妬じゃないか。恥ずかしくてそんな話出来るか!!
「ま、まぁまぁ…とりあえず喧嘩するなって。とりあえず水谷に見て欲しいもんあるから、帰ってきてほしいのは欲しいよ。ね、お願い」
「う、うぅ…栄口が、そう言うなら」
「お前、栄口の言うことなら聞くのか!?」
「阿部はその常にかまえてる拳を下げてくれないからだよ!!」
「あーもう、だから喧嘩すんなって」
疲れた顔する栄口に申し訳なくなって口を噤むと、グイッと阿部に引っ張られた。帰るぞ、と手を繋がれる。すると栄口も同じように反対の手を繋いできた。しかもちゃっかり鞄も持たれている。俺はと言えば家の中でこんなの…と思い腰が引けてしまいカッコ悪い。グイグイ引っ張られ玄関へ行くと、気付いて見送ってくれる家族が居て…挨拶する2人にあわあわしながらも、俺が言えたのは
「行ってきます!」
くらいだけだった。それでも笑顔で送り出してくれた家族の優しさに、荒んでいた心が暖かくなる。
2人は車で来ていたらしく、中に押し込まれ、運転する阿部にミラー越しに睨まれながら我が家へと強制連行された。
部屋の前で一旦止められ、不思議に思って2人を見る。
「水谷、10秒経ったら入ってきて?」
「へ!?」
栄口の言葉にキョトンとしていると、阿部に軽く頭を叩かれた。地味に痛い。
「逃げんなよ、10秒経ったら入れ、わかったな」
「う、うん」
何が始まるのかわからないけど、2人が先に入ったのを見届けて、10秒数える。
10…
9…
8…
…
3…
2…
1…
ガチャリ。
パンパンッ!!
開けた瞬間に発砲音。驚いて目を瞑ったけど、恐る恐る開けると笑顔の2人がクラッカーを持ってそこに居て…
「「ハッピーバースデー、文貴」」
と本日3回目の祝いの言葉をくれた。
「え…え!?」
「ふ…ふふッ…」
「おい栄口、笑うな」
「だって…クククッ」
「な、何?なんなの?」
急に笑い出した栄口についていけず呆然としてしまう。
「あははッ…あのな、ディナーは家でしようって…」
「へ!?」
「だからね、誕生日パーティーは家でやろうって阿部が言い出して…」
「阿部が!?」
驚いて目を見開き阿部を見ると、どこか気恥ずかしそうにふいっと目をそらされた。
「お前が…ケーキ食えりゃ家でもいいって言った時…すげー幸せそうに笑ってたからよ…その、なんだ………くそッ!」
バリバリと頭をかきむしって赤い顔した阿部は、眉間に皺を寄せて俺を見つめてきた。
「誕生日だから、お前のしたいようにさせたくて…。無防備なお前を甘やかしてやりたくて…家でしようって言ったんだ」
吐き出される俺への気遣い。耳に入るそれにカァッと赤くなり、体の熱が上がった。
「それ聞いてさ…俺もそっちのがいいかなって思って…外だとギュッとすることもキスすることも出来ないもんね」
はにかんで凄いこと言ってくる栄口に、更に俺は赤くなる。でも、たった一言もらした言葉から俺の気持ちを読み取ってくれるなんて凄い。俺なんて、あんな最低なこと考えていたのに。
「さ、頑張ったんだ…中に入ろう」
「お手をどうぞ?」
気障ったらしく差し出される2つの手のひらに噴き出しながら、そっと自分の手を重ねる。今度はさっきのような強引な力ではなく、そっと握られるそれに、お姫様扱いかよ…とむず痒くなってしまった。けれど、優しくされることは嬉しいから…黙ってエスコートされてやることにした。
「うっわぁ…」
廊下を抜け、リビングに入るとそこはキラキラと華やかに輝いていた。綺麗にセットされたテーブル。その上に並べられた、沢山の豪華で美味しそうな料理たち。部屋中を飾るのは鮮やかな花々で、ソファーの周りには色とりどりのプレゼントらしき包装の数々。
「すっげ…どうしたのこれ」
「みんなに協力してもらった」
「みんな?」
阿部の言葉に首を傾げていると、栄口が補足するように話しだした。
「西浦野球部の同期メンバーだよ」
「えぇッ!?」
「阿部が家でやろうって言い出した時、花井と偶然会ったから相談したんだ。そしたらみんなに呼び掛けてくれてさ」
「花井が…」
「んで、昨日今日でみんながプレゼント持ってきてくれてよ…部屋中の花は沖がアレンジしてくれたんだ」
「そっか、沖、花屋で働いてたんだったね」
阿部の言葉に、綺麗な花に囲まれて、テキパキ働く沖の姿を思い浮かべる。
「料理は浜田さんに教えてもらうことになってさ…当然泉もついて来て準備してくれた。三橋や西広、巣山に花井や田島もいろいろ持ってきてくれたし、篠岡も協力したいって言ってくれたから、阿部と買い出しに行ってもらって…」
「篠岡!?」
ちょっと待て…それって朝の…アレ…顔見えてなかったけど篠岡だったの!?なんだよそれ…
「なんだよ、もう〜」
ドッと押し寄せる安堵感と疲労にへたり込む。
「どったの水谷」
「…なんでもない。てゆか、この男だらけの危険地帯によく足を踏み入れたね篠岡」
「あぁ、俺達のこと信じてるし、もし何かあったら巣山に言うって釘刺された」
「あー巣山警察官だもんね」
「篠岡、スッゴい楽しそうに準備してた。水谷に会いたがってたよ」
「マジで!?」
「おいこら、なんでそこで赤くなんだよ」
「そ、それは不可抗力でしょ」
眉間に皺寄せて阿部が迫ってくるから思わず栄口の後ろに隠れてしまった。
「みんなも会いたがってたけど、花井があんまり大勢で押し掛けたら水谷も遠慮するし気疲れするから、今日は俺達に任せようって連絡入れといてくれたらしくてさ」
「うわーん花井いい奴!!さすがお母さん!」
「なんでだよ」
テンポのいいツッコミに笑いながら、手を引かれるままに特等席に座らされた。そして、楽しげに笑う俺を、右に座った阿部と左に座った栄口が優しく見つめてくる。
「水谷…そろそろ俺達とパーティーしようよ」
「うんッ」
そう言って笑うと、途端に甘い囁きが落とされる。
「俺達と出会って…俺達を選んでくれて、ありがとな」
「生まれてきてくれてありがとう、ずっと傍に居るよ」
「「Happy Birthday」」
チュッと両頬に唇が触れ、思わず泣きそうになった。何回も言われたハッピーバースデーに、何回でもときめいてしまう。だから、俺に出来る精一杯の笑顔で感謝を伝えるよ。
「ありがとう!大好きだよ!!」
豪華な料理はどれも美味しかった。いつもは「アホか」と言うくせに今日は食べさせてくれる阿部。頬についたソースを舐め取ってくれる栄口。2人はずっと笑顔だった。もちろん、俺も。
そしてクリームたっぷりの大きなホールケーキも手作りだと聞いてびっくり。チョコプレートに書かれた歪な“LOVE”の文字にときめいた自分が恥ずかしい。
楽しくて、幸せでたまらない。
いっぱい食べて、笑って…ゆっくり3人で風呂に入って…
そしてベッドの上でまったりとお酒を飲む。
なんて、素晴らしい誕生日なんだろう…
「なぁ…」
「んー?」
阿部の声にポヤポヤと返事をした。
「結局お前、何へこんでたわけ」
「んなッ」
「あ、そーだよそれ知りたい」
「ちょッ、幸せに浸ってる今、ソレ掘り返さなくてよくねぇ!?」
「いや、スッキリしないと眠れん」
「阿部そんな繊細じゃなくね!?」
「泣かす、お前絶対鳴かす」
「俺今日、誕生日!!つか最後のニュアンス違うよね!?」
「ま、まぁまぁ、阿部も水谷も落ち着いて」
宥める栄口には悪いけど、出来ればあまり触れて欲しくない。……無理そうみたいだけど。
「言うまで寝かせねぇ」
「なんでッ」
「心配なんだよ、水谷のこと」
「うー…」
「…」
「…」
「……………………妬いてた、だけ」
「「は!?」」
「だからッ、妬いてたの!!今日、偶然阿部見つけて、女の子と楽しそーに歩いてたから…女の子後ろ姿で見えなくて…篠岡だってわかんなくて…もしかしてデートかなとか栄口もそーなのかなとか、いや違う2人はそんなことしない、でもなぁ…ってグルグルしちゃって」
「「(…なんだこの可愛いの)」」
唇尖らせて、不満げに言えば、2人は口元押さえてプルプルしていた。やっぱり引いた?
「んん、コホンッ…つかお前、そっからまた自分じゃなくて女のが俺ら幸せになんじゃねーかとか思ってねーよな?」
「……………」
「思ったのかよ!!テメェ何回同じこと言わせんだこのクソレフトォオオ!!!」
「ぎゃああああああレフト関係なぃいいい!!」
酒の入ったグラスを取り上げて、拳を作る阿部から必死に逃げようとすると、栄口が抱き締めて庇ってくれた。
「阿部、お、落ち着いてッ…」
「落ち着いてられっか!!何回も言ってんのにコイツッ…」
「トラウマ作ったのは俺だし…」
「…ッ」
「ちがッ、栄口は悪くねぇって!!」
「ううん、俺だよ。だからさ、不安になったら何回でも言ってよ、その度にちゃんと、水谷だけだよって伝えるから」
「栄口…」
「なんて感動させて終わると思ったか!!おい、栄口…もうコイツ体にわからせるべきだと思うぜ」
「はぁああああ!?」
ちょっと阿部!?何言い出すの。感動で終わらせてよ!
「まぁ、うん、最終的にはそっちに流れる予定だった」
「はぁああああああああ!?」
え、何…栄口まで怖い…
「と、いうことで…骨の髄まで俺達の愛がどんだけふっかぁいのか教えてやるよ」
「え、遠慮します」
「何言ってんの、誕生日プレゼントだよ水谷」
「遠慮します!!」
「「きっちりみっちり体の隅々まで愛してやる」」
その言葉と共に体はベッドに沈み込む。恐る恐る見上げた先には、満面の笑みで見下ろす2人の姿。
「うわぁあああん、やっぱりこうなんのかよおおお」
なんて泣き言をもらすけど、やっぱり愛されるのは嫌なわけなくて…。
優しく快楽を引き出して、触れ合う体は熱く、甘くて、気持ち良くて、幸せで…。
どうしても込み上げる気持ちを吐き出したくて、トロトロに溶けた笑顔で吐息混じりに甘いセリフを…
「大好き、だよ…」
笑う2人も、もっととろけてしまいそうな甘ったるい声で、
「「愛してるよ」」
と、声を重ねてくれた。
午前0時まで、時間はまだまだたっぷりある。明日も休みだ、疲れ果て眠ってしまうまで沢山愛してもらおうか…
ケーキのように甘い時間。
幸せなその時間を…
更に甘い甘い笑顔で溶かしてしまおう
Happy Birthday 文貴
主催したはぴばふみきという、水谷誕生日企画に投稿のお話です。初めて、長編連載をしとても思い入れのあるSTAND UP!!という小説の番外編になりました。知らない方もいらっしゃると思いますが、それでも一応読めるように解説を入れてみました…それのおかげで、短編にしては長い話になりましたが(笑)どんな形であれ、水谷が愛されて、幸せに笑っていてくれたらなぁと思ったこの作品。大好きだよ文貴!ハッピーバースデー! H25.1.4
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