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第8章

病院―――

時々
くつが床に叩く
高い音が聞こえるだけで
周りはとても静かだった

美優も、沙良も、
後から駆けつけた優奈も、
美優と咲の両親も

誰1人声を発さなかった

ガーー

手術室のドアが開いた
その音にみんな反応し、
近づいていった

「咲は・・・・・・」
咲のお母さんが震えた声で言う

「・・・・お気の毒ですが・・
 残念ながら・・・・」



――――――――――うそ
うそ うそ――

咲・・・・・・咲・・・・・・!!


「うそ・・・ですよね、
 うそですよね先生?!」

美優は先生に飛びついて
シャツをつかむ

「こら・・、美優・・、
 やめなさい、やめなさい!」

お母さんに引っ張られても
美優は離れようとしない

「咲は・・・すごい優しくていい仔なんです!!
 なのに・・・なのに死ぬなんて・・・・
 おかしいよ、おかしいよ先生!!!先生ってば!!」

美優の声が病院に響く
美優の目には涙がたまっていた

先生は、美優の手をほどこうとしなかった

先生は・・・・泣いてた

今回咲の手術をした先生は、
美優と咲の家の人が病気になると
いつも見てくれていた、先生だった
美優や咲、沙良、優奈を
かわいがってくれていた

だから先生も辛かった

助けられなかった悔しさと不甲斐なさで
泣かずにはいられなかった

美優は何もいえなくなった


――――再び、沈黙が訪れた

「咲ちゃんのところに、案内します
 ついてきてください」

みんな、先生についていった

手術室から3つ離れた部屋に
咲はいた

部屋は暗い

先生が、顔の上にあった布を取る

部屋がいっそう暗くなった

布の下には
キレイな顔をした、
咲がいた

もうこの、
大きくてぱっちりした目も、
「美優」って呼んでくれてた口も、
支えてくれていた手も、
一緒の道を歩いていた足も

動かないんだ・・・

涙が頬をつたって床へ落ちる

「咲・・」
「咲お姉ちゃん・・・」
「咲ちゃん・・」
「咲・・・・」

みんな、咲が大好きだった
やさしくて、かわいくて、
勉強ができて、しっかりものの
咲が大好きだった

まだ、実感がない

今またいつものように
「美優-!!」「おはよ-っ!!」
って声をかけてきそう

起き上がってきそうなのに・・・・

目の前には咲がいるのに・・・

もう美優って呼んでくれないんだ

もう、あの少し高くてとても元気な
大好きな声が・・・

聞けないんだ

咲は・・・・
咲はもう・・・・・

「やだ・・・やだよ・・・・・
 やだよ、咲ーーーーー!!!」

美優は咲に・・
血が通っていない
冷たい咲にしがみついて

ただただ泣き続けた





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