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ゼロがよっつ
競技場の外れの自販機で、どきゅんと目撃したのは立ちすくむ皇帝陛下。
このまま黙っていても埒が開かないので、ちょっと身を乗り出し横から覗いてみた。
見ると棒立ちになっている皇帝陛下は、手に紙幣を握りしめて顔をしかめている。

「あのぅ……どうかしましたか?」

そう勇気を振り絞って声をかけてみると、ぎろりと険しい鷹の目で睨まれた。
うあぁ。怖い。ゴメンナサイ。
ルルーシュとユフィと半分血が混じってるからまぁ大丈夫、なんて思ってました。すいません。不敬罪なんかにしないでくださいお願いします。
すると、こちらが戸惑ったのを気付いてくれたかのように、陛下の目がちょっと優しく細められた。


「……あ、ああ。すまない。ちょっと、じゅうすを買おうと思ったのだが、紙幣が、どうも入らなくてな……待たせてしまっただろう。先に買ってくれ」

「いえ、そんなことはないですけども……お金に、皺が寄ってるせいかもしれませんよ。伸ばしてみたらどうですか」

「いや……多分まるっきり新品だと思うが……ちょっと、見てくれないか」

「は、はぁ……」


新品の金って、そんな言い方、きっと普段はお金なんか持ち歩く訳がないんだろうなぁ……と思いつつ、受け取ってみると確かに新品と言える程綺麗だ。
皺一つ無い。鮮やかなインク。黄色味すらない。刷り上がったばかりのお金って、きっとこういう風なんだろうなぁ。完璧なまでに紙幣だった。疑いようもない紙幣だった。


――ただ、ゼロが四つもついてる以外は。


「えーっと、あの、その……自販機に、一万は、入らないと思います……」

「何!? ……そうか、そうであったか……」

紙幣を返すと、皇帝陛下は雨に濡れた植物のように少ししゅんと項垂れた。
いつもの肖像画やテレビとかで見る威厳に影が差すと、何だかちょっと可愛い気もする。曇った表情がルルーシュに通じるものを僅かに思わせた。
「千円とか、小銭とかないんですか」という質問は愚問だろうな、きっと。


「えーと……貸しますよ、小銭……」


皇帝陛下に小銭を貸した人間って、多分世界初めて何じゃないだろうか。



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