あついあつい。
かくして、皇女殿下とその騎士と、昼食を食べることになった運動会の昼下がり。
四人で適当な木陰を見つけて、持ってきたブルーシートを敷いた。そこ上がって向かい合うように座り、それぞれのお弁当を広げる。
極めて一般的で庶民的な運動会やハイキングの昼食の風景なんだけれども、ユーフェミア様にはやはり物珍しいようで、子供がするようにきゃぁきゃぁはしゃいでいた。
「じゃーん、どうです、スザク! 私の自信作なんですよ、しっかり味わって食べてね」
「うわぁユフィ、予想以上にこれはすごいよ」
そしてユーフェミアが仰々しく広げた、スザクのための手作り弁当は、中々に素晴らしい出来であった。
だし巻き卵に唐揚げチーズちくわにたこさんウィンナーなど、お弁当のベター、即ち王道どころをがっつりつきつつ、彩り豊かにまとめている。見た目もつやつやと麗しい。
スザクに合わせてか、主食はおにぎりで、しかもばっちり三角形に握ってあった。とっても美味しそう。
意を決して、ユーフェミア様にそっと話しかけてみる。
「あの、ユーフェミア様」
「ユフィでいいですよ」
「そ、そんな、滅相もない!」
「いいんですって。スザクもルルーシュもみんな呼んでいますし」
「……え……っと、じゃ、ユフィ、これ全部一人で作ったんですか?」
「ええ! ……でも、全部、と言ったら嘘になりますね。お姉様と、お姉様の騎士の、ギルフォード卿に手伝って貰いました! 最初はセシルさんスザクの、技術部の方に教えて貰おうと思ったんですが、何故かお姉様達に止められてしまって」
「セシルさん」という人物の名前の後に、何故かスザクの乾いた笑いが聞こえた。風の噂のポイズンクッキングの女性だろうか。
それにしても、手伝って貰った、とは言っているけれど、ここまで綺麗に出来るのは、やっぱり元々彼女に料理の腕があるからだろう。
ミレイ会長曰く、「この手のキャラは生活力0」が定石らしいけれど、ブリタニア皇族って大抵のことは何でも出来る質なのかも知れない。ルルーシュだって、結構上手いんだし。
「ほらほらスザク、遠慮しないでどんどん食べて! 美味しく、なさそうですか?」
「いやいやいやいや! そんなことないよ、ちょっと見とれてただけ………………はぐ。うん、凄く美味しい。ユフィ、意外に料理も出来るんだね」
「もう、意外には余計よ。ほら、だって、将来、スザクのお嫁さんになったら、へたっぴぃだったら困るでしょ?」
「……ユフィ……僕は、ユフィが居てくれたらそれで構わないのに。むしろ、僕がやるよ、料理なんて」
「まぁ、スザクに任せたらきっとお腹壊しちゃいますよ」
「えー、ひどいなぁ、ユフィ。料理も出来ないと、いい旦那さんとは言えないじゃないか」
「……げほっ」
ぶおっと、体中から火が吹き出る思いがした。
口に入れたのが、自分のお弁当の唐辛子多めのピザだったと言うのもあるけど、何と、何というユフィとスザクのアツアツぶり。食べ物がのどに詰まりそうになって慌ててお茶で飲み下した。
見たところこのカップルは、どちらも天然同士の組み合わせだから、ここまでハズカチイ言葉が出てくるのかも知れない、日常会話の流でこんなにすんなりとピンクに場を染めてしまうなんて。
恐ろしい子たち! さっき「初々しい」なんて表現してごめんなさい。
それでも当の二人は平然としてるんだから、恥ずかしくなっているこっちがおかしいのか、なんて思ってしまう。
聞いているだけで熱くなっている頬を、お弁当の蓋で隠して誤魔化していると、隣のルルーシュがちょいちょいと肩をつついてきた。
「なぁ、ちょっと相談があるんだが」
「え? 何? どうしたの」
神妙な顔をずいっとこちらに近づけてくる。
「実は、スプーンとフォーク忘れた」
「え?」
彼は、ひらひら両手を振って手に何も持っていないジェスチャーをして見せた。
「はぁ!? 何を子供みたいなことを……で、どうすんの?」
「ああ、だから頼みがある」
ルルーシュは、にやりと笑って私のフォークを指差した、顔と顔を接近させたまま。
「弁当、食べさせてくれれば嬉しいんだけど」
「☆@●%$#=!??!?!?」
破廉恥な人がここにもいました!
「な、な、何を、馬鹿馬鹿ぶぁかなことをッ!! あのさ、もしかしてもしかしなくても、対抗心燃やしてる? いいって、そういうことは本当の恋人とか好きな人とかとやればいいじゃない! てか、やるもんなの!」
「失礼な。俺は本気で困ってるんだ。手づかみで食べる訳にもいかないだろ」
「そりゃそうだけど、誰かから貸して貰えば〜〜ッ」
「ああ、だから、お前から借りたい」
「うん、そりゃ、貸すだけならそりゃ貸すよ! はいどうぞ!」
「ああ、それに実はまだ持久走の疲れでまともに手足が動かないんだ」
「嘘! めちゃくちゃ歩いてたじゃん! 鼻摘んで起こす時、めちゃくちゃ手足ばたつかせてたじゃん!」
「あらあら、やっぱりとは思ってましたけど、二人はそういう仲だったのね、スザク!」
「う、うん、まぁ多分、似たようなもんだと思うよ、ユフィ」
「そんなんじゃありません! 全部こいつの悪ふざけなんです、ホント!」
そうやって涙ながらに、ユフィとスザクの二人に助けを求めようと、あれ、なんか期待に満ちた目でこちらを見つめてませんかお二人さん。
「やってもいいと思う」
「やっちゃってください!」
二人同時にそう言われた時は、彼らのノリには訴えるだけ無駄なんだなと正直悲しくなったよ!
ルルーシュはじっと、湿った目でこちらを見つめて待ちわびている。アツアツカップルからは何やらプレッシャーがかけられている気がする。
それらに気圧されて、無意識に手はルルーシュのお弁当に伸びて、フォークが肉団子を一つ刺した。
怖々とルルーシュを見上げると、待っていましたと言わんばかりに形のよい唇が弧を描いて、開いた。
何で、どうもこうも、ルルーシュに対して拒否権はないのでしょう。
「おい、早く食べさせてくれ」
「〜〜〜〜〜〜ッ、心の準備が」
「昼休みが終わる」
「……うう……」
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