桃色恋色皇女色
「スザクー!」
「ユフィ! 本当に来たの!?」
「ええ、だってスザクの晴れ舞台ですから、当然でしょう」
「そっかありがとユフィ、すっごく嬉しいよ。でも、大丈夫なの? また、始めて会った時みたいに抜け出してきたんじゃ」
「失礼ですね。今日は、大丈夫ですよ。お忍びとは言っても、お姉様やシュナイゼル兄様も一緒なんですから」
「へぇそれはある意味で大変、じゃないかなぁ」
「……おい、スザク」
「あ、ルルーシュ」
「ルルーシュ! 久しぶりですね!」
何となく気が引けて二人に近寄るのを躊躇っていたのに、ルルーシュは目の前の桃色場面の中につかつかと足を踏み入れていったのだから、もう呆れるしかなかった。
ここまでくると、ルルーシュの鈍感は保護に値するような気がする、絶滅危惧種並だ。
彼に従って、あどけない初々しさを醸すスザクとユーフェミアに歩み寄るも、何となく申し訳ない。だからルルーシュの背中に隠れるしかなくて、どうしようもない。
こんな、愛とか恋とかそっち系に関しては可哀相なぐらい疎いルルーシュ、しかしさっきまでは随分にも顔を赤く染めていたのだった。
ただ単に、彼を起こすために鼻を摘んで窒息寸前にしてやっただけだけれども。ふがふがと顔に似合わない変な声まで発した。だけれど、こういう頬の染め方が彼の限界ではないかと思う、皮肉じゃなくて、正直。
例外が、借り人の時にちょっとだけあったような気もするが、あれは何だったんでしょうね本当。
そして中庭を出て、再び運動場に戻り、時計を見るともう十二時を回っていた。
昼休みは確か一時まで。慌てて、お昼を一緒に食べる約束をしていたスザクを二人で探していたのだった。
そんな所、スザクとユーフェミアの語らいに出くわしてしまったのである。
タイミングが悪いとしか、言いようがないったら。
「悪いな、スザク、遅くなって。お昼一緒に食べる約束してただろ。別に、ユフィと食べたいって言うのなら構わないが」
「いや、それは流石に無理だと思うよ。コーネリア殿下もシュナイゼル殿下も来てるらしいし」
「……まだあいつらも居るのか……仕事しろよ……」
ルルーシュは苦苦しげに吐き捨てた。コーネリア殿下はまだしも、綱引きといい棒倒しといい、散々シュナイゼル殿下には邪魔されたのだから、そう言う反応を見せても無理はない。
しかしそんな彼とは対照的に、ユーフェミアはとても楽しげにこう宣もうた。
「だから、大丈夫ですってば、スザク、ルルーシュ。お姉様には、道に迷ったって言えば許して貰えます。私が三十分程度居なくなろうが、怪しまれません」
「はい?」
「ですから」
ルルーシュの肩越しに彼女を見ると、綺麗な風呂敷包みを誇らしげに二人に示して、柑橘類を思わせるみずみずしい笑顔を浮かべている。
「一緒に食べましょう、私、この日のために作ってみたんですよ、お弁当!」
スザクの顔と、ルルーシュの顔を交互に見た。
スザクは、困惑しながらもやはりどこか嬉しそうで、視線はばっちりユーフェミアの手作り弁当に食いついている。
一方ルルーシュは、あからさまに頬を引きつらせて表情を固まらせていた。うん、内心とっても嫌そう。
「いや、でも、しかし――」
「遠慮しないで、ルルーシュ。大勢で食べた方が楽しいでしょうし、それにルルーシュとはたまにしか会えないんですから」
「それはそうだが おい、名前はどうだ?」
「ふえっ!? 私!?」
いきなり話を振られても困る。
驚いてルルーシュを見上げた。アメジストの瞳が「頼む、俺の代わりに断ってくれ」と語っている。いや、そんなこと、求められても。
「どうか、今日だけ友人として、入れて貰えませんか? 私も、あなたとお話がしてみたいし」
「……は、はぁ……」
今度は皇女殿下が子リスのような瞳で訴えてくる。
ああ、眩しい。そんな表情とお声で、とても優雅で目が眩んでしまいますですユーフェミア様。
「……ま、いいんじゃない、ルルーシュ? ユーフェミア様の言う通り、ご飯はみんなで食べた方が、楽しいだろうし」
「お前!」
ルルーシュの恨みがましい叫びから逃れるように、ふいっと首を大きく回して顔を背けた。
「ありがとうございます!」
と、ユーフェミアは光に満ち満ちた微笑みを、惜しむことなくこちらに向けてくれた。
そりゃぁ、もう、この笑顔には拒否権なんてないでしょう。
ごめんね、ルルーシュ。
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