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兄弟喧嘩 in 棒倒し



「おかしい……今回はわざと崩しやすく、陣形に一部に穴を開けておいた。そこを囮にして正面突破する作戦だが……何故あっちは誰も動かない!?」





場にいる者は誰一人、一歩たりとも進もうとしないでいた。
お互いがお互い蛇に睨まれた蛙のごとく、威嚇するでもなくただ対峙している。

その緊張感に気圧されて歓声も水を打ったように静まった。汗を拭うことすら許されざる雰囲気だった。

あまりの予想外のことに、ルルーシュの困惑した表情がこちらからでもありありとわかる。





だが、私はその理由が解っていた。
敵陣にルルーシュと同じく人間やぐらによって担ぎ上げられているのは、燐光を上げる美しいプラチナブロンド。





第二王子にして宰相シュナイゼル殿下その人。






綱引き参加ついでに、彼が飛び入り参加でもして、相手側の指揮を執っているのだろうか。





「会長、あっち側にいるブロンドの人、うちの学校の生徒じゃない気がするんですけど」

「あ、そ〜言えば、人数調整のため一般人から参加を募った、って報告があったわね」

「そんなアバウトでいいんですか生徒会長……」





とにかく、諸葛孔明も真っ青の戦略家二人が居る以上、この戦いは面白いことになりそうだ。
私は息を詰まらせてながらも、その行く末を見守ることにした。





(まだいたのかシュナイゼル……さっさと帰ればいいものの……物好きめ……)

(ルルーシュ、あんまり好き勝手が過ぎると、お仕置きしなきゃいけないな、兄として)





無言かつ遠距離で、人間やぐら上の二人は空中火花を散らす。






静寂を断ち切り、ルルーシュはばっと、右手を振り上げた。





「A部隊右半分は若干後退、B部隊はその右側よりへ移動!」





ルルーシュ側の陣が動く。シュナイゼルもそれに応じて、自分の布陣の形を変えていった。





「誘われることはないが、鶴翼の右翼左翼共に前進、特にあっちの突撃隊が少なくなった右側は、より前へ」

「B部隊はA部隊中央に集結!」

「右翼左翼共に九十度方向を変え、敵と並行に並び、ただし少し真ん中は開けておこうか」

「そんな誘いには乗らん。もう、ただ攻めてばかりいた昔の俺ではないんだッ」

「ふむ……成長したねルルーシュ。ならばこっちは……」

「なんの、今度は……」





















それから三十分後。






















「なんつう地味な棒倒しなんだろう……」





正直そう言わざるを得ない事態に陥っていた。






「今だ、A部隊第五分隊は鉛直方向に移動、相手を囲め!」

「いや、まだまだ、敵の侵入方向に拡散し、そこで体勢を立て直す」




地上の棒倒しは全く動く気配がない。




ただ行われているのは策士二人の脳内はたまた机上での戦い、言わば空中戦である。

正直、もはや別次元というか、飽きてきたというか、理解不能というか。本人たちは額に汗滲む戦いなのかもしれないけど。

そろそろ彼らの言うとおりに動くのも疲れ果てて、出場者たちは一人また一人と地に伏すようになった。
本物の惨劇があったかのように、体力ゼロの屍が転がる様はどことなくグロテスク、しかしそれを気にする気配は勿論ないのがこの二人。



布陣合戦が延々とのべつ幕無しに続けられる。



「……シャーリー、私ちょっと限界」

「正直私も……ルルも意固地だからね……」

「これ、本物の軍隊だったらどうなってたことだろう」

「あんまり想像したくないなぁー……」

「確かに」



世界一はた迷惑な兄弟喧嘩で、不幸を被るのはどうしてか我々一般人なのであった。
もういい加減にしてください、いやホント。










結局ミレイ会長が止めに入り引き分けと相成りました。

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