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入場 進!



「と、いうことでぇ〜! これより、私立アッシュフォード学園部活動対抗大運動会の開催を宣言します! 総合得点で優勝した部活には、生徒会から特別予算をプレゼント! みんな、気張っていきなさいよ〜! まずは選手入場、野球部から!」



花火と共に、ミレイ会長の声がスピーカーを通して燦然と響いた。



「天気は快晴、気温はやや高め。抜群の運動会日和だね、ルルーシュ」

「ああ、そうだな名前」



青空の下、アッシュフォード学園の運動場には、部活動ごとに分かれた生徒達が整然と並ぶ。
私を含めた生徒会もいち部活として、その最後尾で入場行進の順番を待っていた。

隣のルルーシュは、この熱気の中どことなく物憂げで、運動には向いていなさそうな細い肢体を半袖短パンから覗かせている。
晒している、男の子なのに白い柔肌は、見てるこっちが日焼けを心配してしまうと言うか、綺麗で羨ましいと言うか。



「何か元気ないっぽいけど・・・・・・大丈夫? 具合悪い?」

「いや・・・・・・運動はあんまり得意じゃないからさ」

「もやしっこー」

「るさい。名前、ちゃんと日焼け止め塗ったか?」

「塗ったよー。一応乙女ですから。ルルーシュこそ、塗ってる?」

「男が塗るのは変じゃないか?」

「でも、ルルーシュなら、日光浴びっぱなしにしてたら明日真っ赤になっちゃうんじゃない? 弱そうだし」

「心配で、手ずから塗ってくれるっていうのなら咎めはしないけど」

「・・・・・・阿呆か・・・・・・」



私は溜息をついた。
運動会が終わって、ルルーシュの皮がべろんべろんに剥けてたら全部はいでやろうと思う。
因幡の白ウサギがごとく、全剥ぎにしてやる。ひぃひぃ言わせられたら本望だ。痛がったって知るもんか。



「そんなことより、もうちょっとテンション上げて行きなさいよぅ。ルルーシュだって何か競技出るんでしょう?」

「基本的にみんなの応援を頑張ろうと思ってるよ」

「えー、お願いだからがっつり本気出してよぉ。ミレイ会長が、もし生徒会が優勝したら特別予算でごちそうしてくれるって言ってたじゃない」

「俺の本気を期待したところで無駄だ。第一ありえないだろ。現役運動部をさしおいて優勝だなんて」

「そこを考えて、遊競技とか、特別ルールとかたくさん入れてるみたいよ」

「それでも基礎体力が違いすぎる。車で言えば、エンジンの性能もタイヤの質も違うんだ」

「いや、それでも車種の多様性みたいに、生徒会にも何らかの強みが・・・・・・」

「生徒会が唯一特化して出来ることといえば、コスプレ衣装作りぐらいのもんだろ?」

「うー・・・・・・」

「勝てない戦はしない主義でね」



そう言いながら、ルルーシュはぐぃと天に向かって背伸びをした。
まだ低い太陽に、その手のひらが届きそうだった。

しっかし、またそうやって、俯瞰するような態度をとる。まるで私だけムキになってるみたいじゃない。実際そうなんだろうけどさ。
勝負事には、やっぱりついつい欲が出てしまうのが人間。
でも、それでいいじゃん。熱くなろうよ。人間だもの。
そのためには、もやしでも、協力してもらわないよりはマシだ。ただでさえ、生徒会は人数不足なんだから。



「でもさでもさ、スザクがいるじゃん! あっちが現役運動部なら、こっちは現役軍人なんだよ? 厳しい訓練を日夜こなす、世界に誇るブリタニア軍の一員だよ?」

「それはそうだが・・・・・・」

「毎日部活が終わったら宿題もせずに惰眠を貪る高校生とは格が違うんだぜ!」

「お前が自慢げに言ってどうする。そんな高校生の代表格の癖に。大体、スザクだけじゃどうにもならないだろう」

「百人力だよ。だって、体力テストの結果聞いた? 校内の平均値なんか足下にも及ばないって」

「体力馬鹿だからな、あいつは」

「馬鹿で悪かったね」



肩の後ろから、ひょいとスザクが顔をのぞかせた。

こちらはルルーシュとは対照的に、日焼けが似合いそうな蜜柑色の肌。太陽どころか紫外線とも友好関係が築けそうな、強靱なまでの健康的な艶を含んでいた。
何だか眩しく感じる。本当は軍人よりもスポーツマンという名称の方がよく似合うのだろう、スザクには。



「あ、スザク! 今日は大いに頑張ろうじゃないかっ! 大活躍を期待してるからね」

「ありがとう。応えられるかどうかはわかんないけど、ちょっとだけ本気出していこうかな。やっぱり、こういう行事って燃えるしね」

「だよねだよね。闘争本能が呼び覚まされちゃうって言うか。ついつい真剣になっちゃうのが若さなのか性なのか」

「どっちも、じゃないかな? 楽しまなきゃ損だよ、こういうのは」

「・・・・・・」

「どしたの?」



ふと、ルルーシュが怪訝そうな顔をして、口を閉ざしこちらを見つめているのに気がついた。
疑問の意を込めて、その顔を覗き込んでみる。丁度日が、雲に入って柔らかくなり、長い睫毛が目元に一層の影を落としていた。



「・・・・・・悪かったな、俺は殆ど何も貢献できそうになくて」

「・・・・・・え。・・・・・・あー、えっと」



ルルーシュは小さく呟いた。

運動場全体に薄灰色の影が落ちてくる。風が一筋吹く。



「もしかして、拗ねた?」
「・・・・・・拗ねてない」



そっぽを向かれる。



嘘をつけ。スザクスザクと、ないがしろにしすぎて拗ねたのだろう。
全く、無駄にプライド高い奴なんだから。



「ルルーシュ、貢献できるか出来ないかが運動会を計る物差しじゃないんだから! ようはやる気よ、やる気。出してくれるだけでいいの! 熱意を持って参加することに意義があるんだぜ! 全体の士気も、勝利の秘訣也」

「・・・・・・なんか、名前、口調が体育会系だな。言い方が暑苦しいぞ」

「いや、やっぱりこういうのは、形からで。ルルーシュの指揮統率とかも、期待してるよ? 騎馬戦とか、棒倒しとかで。・・・・・・その、悪知恵で?」

「戦略と言え、戦略と。悪知恵だなんて言い方、俺が悪役みたいじゃないか」

「正義の味方よりそっちの方が似合ってると思うけど」

「・・・・・・フン。まぁ今日一日、頑張って付き合ってやるよ、お前等に」

「うんうん。ありがと、ルルーシュ」



陽光は無ければ無いで寂しさを感じてしまう。
また雲から顔を出した時にはどこか懐かしい気分になった。
日差しが地上に注ぎ込まれ、周りが一段階ゆっくりと明るくなった。



そして、さっきまでは日焼けに負けてしまいそうと心配していたルルーシュの肌が、鮮やかに煌めいた気がした。
その輝きは、光に透けるガラス玉のそれに似ている。
壊れそうな程綺麗だと思った。



「さぁ、行進の最後は生徒会メンバー! ちなみに私、生徒会長ミレイ・アッシュフォードもこのチームに参加いたします。
ただのお祭り好き集団だとなめてもらっちゃぁ困る!! 今日はその隠された実力を遺憾なく発揮する!! ・・・・・・予定でーす。
ただし! 優勝部活チームに希望の生徒会メンバー一人が丸一日完全ご奉仕! なーんてことにしちゃうから、運動苦手だからって頑張らないと駄目よ〜」



「・・・・・・これって、また完全にルルーシュをターゲットにしてるよね」



ミレイ会長のアナウンスを聞いて、スザクは苦笑した。ルルーシュも同じことを思ったのか、一瞬にして青ざめていた。

だが、おそらく対象としてアウトオブ眼中であろう私は、呑気に笑う。



「いやいや、スザクもあり得るかもよ? その身体能力で助っ人とか、悪ければ荷物運びとか。ルルーシュは・・・・・・なんか、チアガールの恰好とかさせられちゃうかもね」

「お前・・・・・・他人事だからって・・・・・・確かに、ありえない話じゃないから怖いんだよな・・・・・・」

「ますます勝たなきゃいけなくなったね、ルルーシュ」

「・・・・・・いいだろう。勝ってやろうじゃないか」



これを境に、ルルーシュの雰囲気がごとりと音を立ててすげ替わった。

その頭の中で劇的な台風か、竜巻でも巻き起こったに違いない。
気力が百八十度回転し、脱力系から、どこか――巷を騒がせる仮面の人のような迸る精力さへ。



「圧倒的不利な状況から、後に『生徒会の奇跡』と呼ばれる伝説を成し遂げてやろうじゃないかッ!! ふははははははははははっ、まずは行進賞からだッ! リヴァル、シャーリー、カレン、ニーナ! お前等も大きく腕と足を振って歩けッ! 目指すはブリタニア陸軍だ! 足並みを揃えろ、かけ声を忘れるな! ・・・・・・何、病弱? んなもん知らん! 恥ずかしい? 運動会で優勝できるのは恥を捨てる覚悟がある奴だけだ!」



「何か・・・・・・完全にルルーシュのスイッチが入っちゃったんですけど・・・・・・スザク」

「うん。実はああ見えて、結構凝り性で、完璧主義だからね、ルルーシュは。実は今回、一番頑張ってくれるのは僕じゃなくて、ルルーシュじゃないかな」

「うーん、まぁ乗ってくれるんだったらそれでもいいけど・・・・・・」

上手く乗せたつもりが、どうやらその範疇を越えて暴走してしまいそうな勢いだった。
日差しはまだまだ強くなりそう。
そして、この場の熱気も。


期待と不安で、わずかな目眩を感じた。

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