2 それから数日間、互いに一言二言の短い手紙のやり取りが今日まで続いていた。 『この時間毎日ここにいますね。もしかして珈琲ショップに居たりしません?』 『残念ながら私には珈琲を飲む習慣が無い。 しかしローストされた豆の香りは気に入っているよ』 『今日は日差しが強かったですね。車の中は暑そう!あ、エアコン効かせますよね』 『幸いにも冷却システムは正常に稼働しているようだ。お陰で私は暑さをあまり感じない』 そんな日常の何気ないやり取りが、楽しくて仕方がなかった。 いつ終わるかもしれない、明日にはいなくなっているかもしれないと解ってはいても、期待してしまう。 このささやかな楽しみがいつまでも続けばいい。 それが一変したのは、いつもと何ら変りのない日の夕暮れ時。 この日はお気に入りの雑貨屋さんで買い物をして、帰りがいつもより少しだけ遅くなってしまった。 毎日決まった時間に待ち合わせていたわけではなかったが、オプティマスがいったい何時から彼処に居て何時に去って行くのかを私は知らないのだ。 買ったばかりの便箋を、通学用のトートバッグにしまいこむ。 オプティマスが毎回キチンとした紙を手紙に使ってくれているのに、こちらが毎回手帳を破ったものでは失礼なんじゃないかと、今更!本当に今更ながらに気が付いたのだ。 しかしあまり凝ったデザインでは、いかにも返事を催促しているようで気が引ける。 悩みに悩んで、男の人が持っていても不自然ではないシンプルなデザインを選んだが、もしかしたら相手は気紛れに書いているだけかもしれない手紙に、態々便箋を新調したなんて引かれるだろうか? まあ買ってしまってから悩んでも仕方がない。それよりも今は遅れてしまった時間を縮めたくて、無意識に早足というより小走りに近い状態で珈琲ショップを目指していた。 遠目からもはっきりと解る、目印なんか必要のない巨大なトレーラートラックを見つけ、顔が綻ぶ。 良かった。まだ居てくれた。 そのままの勢いで駆けていこうとして、ピタリと足が止まった。 人がいる……。 トラックの巨大な後輪のカバー部分に、男が腰かけて煙草を吹かしていた。 え、うそ……。 もしかしてあれが? あの人がオプティマス? 途端にドキドキと騒ぎ立てる心臓を落ち着かせるように、ギュッと握り拳を胸に押し付ける。 待って待って、落ち着いて私! 直接会いたいと申し出た時は、はっきりと断られている。その後どちらからもその事に触れたことは無い。 どんな理由があるにせよ、彼は私と会うつもりは無いのだろうと思っていた。 顔を見ないことでこの細やかなやり取りを続けられるなら、私もそうしたいと思っていたから。 でもでもコレは! 偶然?偶然なの!? いつもより遅かったから、もしかして彼は今日は私が来ないものと思って姿を現したとか? それだと私が今ここで声をかけちゃったりしたら、彼は物凄く気まずい思いをするんじゃないの? ああ、でもだからと言ってこのまま知らん顔で通り過ぎて、手紙のやり取りが終わってしまうのはもっと嫌! どうしよう!どうしたらいいの!? 誰かライフカードプリーズ!!(って古いよ私!) [*前へ][次へ#] [戻る] |