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「もう頭に来た!勝負よ!ジャズ!」
「おいおい、この俺に勝てる気でいるのか?」
観光に訪れる人々が決して立ち入ることのない……存在すら知られていないフーバーダムの地下施設の一画で、小型のオートボットと人間が対峙していた。
オールスパークが僅かな欠片を残して消え去った後、故郷を失った彼らオートボット逹の臨時受け入れ先として改良を施されたとは言え、ダムの内部はあくまでも彼らの居住区であり、武器の使用はおろか争い事そのものも当然御法度だ。
文字通り人外の体躯とパワーを持つ彼らが(例え本人逹が「おふざけ」程度でも)暴れまわったりしたら、その被害は計り知れないだろう。
賢明なオートボット逹は自分達の破壊力を熟知している。
ガルシア基地での活動が主になっている今でも、このダムは任務以外での生活の場として必要なものなのだ。
好んで建物を傷め付けるような輩はいない。
………が、
「あいつら何やってんだ?」
レノックスの興味というより呆れを多分に含んだ声音に、アイアンハイドはフンと鼻を鳴らして「いつものことだろ」と、こちらはもっと関心が薄い返事を寄越した。
年若くもNESTの技術者であり、オートボットの軍医であるラチェットの助手に抜擢されたカレンは、アイアンハイドと並ぶ頻度でリペアルームを訪れるジャズにほとほと手を焼いていた。
比較的小柄ながら機動力に優れたジャズは戦闘となれば誰よりも早く前線に駆け上がり、恐ろしく小回りの利く動きで大型のロボットを翻弄して回る。
敵の気勢を殺ぐのにこれ程適した人材はいないが、懐に入り込む分負傷も多い。
今のところ致命的な傷を追うようなことは無かったが、これからもそうとは限らないのだ。
「せっかく綺麗にしてあげてるのに任務入る度に傷付けてくれちゃって!」
戦場で受けた傷は男の勲章だとフォローするエップスには、消毒用のアルコール瓶を投げ付けておいた。
それにもう一つ。
カレンの神経を逆撫でするのは……
「眉間に皺寄せてたら折角の可愛い顔が台無しだぜ?」
「可愛い言うな!」
これだ。
「そんなこめかみに血管浮かせてないで笑ってた方が魅力的だって」
「だ・れ・の!せいだと思ってんの?このセクハラロボットが!」
リペアルームを訪れる度、事有る毎に可愛いだのなんだのからかわれ、人間ならセクハラで訴えてやるのにと奥歯をギリギリ鳴らす。
しかしそんな反応さえ楽しむような涼しげなポーズを目の当たりにし、カレンの苛立ちは頂点を越えた。
人の気も知らないで!
「これ以上軟派な軽口叩けないようにその口を熔接してあげる。それが世の女性のためだからね!」
音声発信だけが彼らのコミュニケーション方法でないことは解っている。でもそうすれば少なくとも自分の耳には入ってこない。
もう上っ面の言葉に踊らされることもない。
淡い期待を抱いてしまう事もない。
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