「っ…」
口をだらしなーく『あ』の字に開いたまま、ぼけーと呆ける俺。
シャーペンがカラン、と音を立てて参考書の上を転がった。
あとで拾うのはめんどくさいけど、それどころじゃない。そんなのーでもいい。
だって、だって。
え、なんで、どうして。
「うえっ!? もももしかして彼女さんと一緒でしたか!?」
あ"ぁーこん畜生。絶対俺の今の顔、カッコ悪ぃ。
でもどうしてもこのアホ面はなおせねぇ。
つか、こんなこといちいち気にしてる俺だせぇ。
一人やきもきする俺。
彼女は申し訳なさげにぽつりぽつり、言葉を紡ぎ出す。
視界の隅に綺麗な黒髪が漂った。
微かに香るは、甘い甘い林檎の香り。
「す、すすすいません私ってば─…
席……もうここしか…空いてなくって……」
動揺しているのか、唇に手を当てて、所在なさげに宙をさ迷う漆黒の瞳。
内気な君の、昔からの癖。
変わらない。変わっていない、何もかも。
その声も、雰囲気も。
ぜんぶぜんぶ、昔のまま。
俺の知ってる、君。
ありのままの、君。
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