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SoulCalibur's Novel
JEWEL
白く丸い月が、部屋の一室を蒼く照らしていた。窓を開けたその部屋から、かすかに冷えた風が入ってくる。身体の内にこもった熱を冷ましてくれるように。
部屋は二つのベッドと読書をするには十分な机と、荷物と着る物を収めるためのクローゼットと、生活するには必要最低限の家具が置かれている簡素な造りの部屋だ。その中で男が一人、眠る少女の面影をそっと見守っていた。少女はベッドの中で深い眠りに落ちている。その少女には抱えきれない疲れが身の内に溜まっていたのだった。
疲れ果てた身体で眠る少女を、男はこうやって見守っている事しか、守ることは出来ない。
「エイミ・・・」
ベッドの中で眠る少女の名を呼ぶ。彼女は起きる気配すらなかったが、それでも男―――ラファエルは安堵の息を吐いた。彼はエイミの頭を撫でる。頭から頬へ。そうしているだけで、自分の娘のように思えてきたからだ。
しかし。
エイミを守り続けることしか出来ないのならば、私にはまだ力がない。何かを守るだけならば、誰だって出来る筈だ。そうでなければ、いつかは壊れてしまう。
―私には、まだ。エイミを守れる力がない―
だが、その事をいつまでも悔やんでいる訳にはいかなかった。
ふと、彼は机の上にある本を手にした。静かにページをめくれば、そこには魂喰らいと称される邪剣が記されていた。魂と引き換えに最強の力を与えてくれるそれならば、守る力も手に入る。何処にあるかは分からない。時間はかかるだろうが、慎重に事を運んでいけばいい。
「・・・・・・・」
彼もまた、身の内に疲れが溜まっていた。眠気に身を委ねるように腹の上で腕を組むと、目を閉じた。                                            白いレースのカーテンの隙間から直射でエイミの頬に光が射した。
目を開ければ、もう朝だ。太陽の光が、とても眩しい。起き上がれば、ベッドの向こうで、ラファエルが何かの準備をしている。彼はエイミの方に振り返った。エイミにしか見せない優しげな表情。
「エイミ・・・起きたのか」
その言葉にエイミはこくん、と頷く。
「今日もまたたくさん歩く事になる・・・おまえにとっては辛いだろう。だが、おまえの為にもなる。私と一緒に来てほしい・・・」
そう、いつだってラファエルという男はエイミという少女のために一人で何かをしてくれていた。ラファエルはエイミの為なら何でもするのだろう。
例え、世界の全てを敵に回してでも―――。                                        ―――小さな食事の後、彼らは宿を出た。彼らが歩を進めた先は、森の奥だった。生い茂る雑草や木々がガサガサと音を立て、風が小枝を揺らして。膝下まで伸びた草は、幾度も彼らの足を引っ掻いた。
やがて、時間をかけてたどり着いたのは、森の中にひっそりと建つ古びた小さな小屋だった。わずかな軋みの音だけをたてて、扉が開く。
散乱した本。ページが開いたまま伏せてあるものや剥き出したままのものが床を埋めつくしていた。足場こそあるものの、出来る限りの本をどかさなければ、中に入ることは不可能といえるだろう。ラファエルは埃を落としながら、慎重に本を積み上げていく。むせ返りながら、最後の一冊を拾い上げたころ―――、床を埋めていた大量の本は隅に寄せられ、すっきりと小屋そのものの姿を取り戻していた。
小屋の中にある小さな台に座らせると、ラファエルは言った。
「エイミ・・・私はこれから、しばらく戻らなくなるが、良い子にしてるんだよ」
ラファエルはあの時と同じように頭を撫でる。
「ラファエル・・・・・」
「ん?」
「エイミ・・・待ってる・・・・・」
わずかに紡ぐ言葉にラファエルの中の何かが込み上げた。その言葉を最後に。
狂気の糸で紡がれた彼の想いは彼を突き動かしていた。その中に宝石とも呼ぶべきかけがえないのないものがある―――。それがある限りラファエルの中から消えることはなかった。
 
「・・・・・」
誰もいない小屋の中でエイミは目を開けた。何故か夢をみたような気がしたからだ。夢の中で―――ラファエルと別れた夢を。
哀しい想いをエイミは感じた。
彼女は台を下りる。
「行かなきゃ・・・ラファエルの世界を守る為に」
エイミはその手に、剣を取った。

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あきゅろす。
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