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SoulCalibur's Novel
Serenity
空を仰げば、これでもかという程に太陽が照らしていた。白い砂浜は何処までも続き、青い海は静かに波音を奏でている。太陽に照らされ、光を受けた波は地平線の果てまで輝きを絶えなかった。本当の夏が訪れているのだと彼――キリクは思った。東の地平線より昇り始めた太陽はまだ真上にある訳ではない。朝を迎えてからそれほど時間は経っていないのに、じりじりと肌に焼け付く暑さを感じるのは何より夏が来ている証拠だった。
キリクは滅法棍を手に、白い砂浜で武術の組み手を一人で行っていた。暑さの所為か上半身は何も着ていない。下半身は赤いずぼんを履いている。赤茶けた少し伸びた髪は彼の激しい動きで右に左に揺れていた。時折、キリクの顎を伝って汗が伝い落ちる。だがそんなことは気にせずに、彼はただ舞い続けた。
其処へ――、
「朝からずいぶん張り切ってるな」
声がしたほうへキリクは振り返る。
「真喜志」
真喜志と呼ばれて男はキリクの姿を見て、半ば呆れたようなそれでいて少し安心したような表情をした。
「どうだ、少し休まないか?」
「そうだな…休むとするか」
二人はちょうど椰子の木が生えているその木陰の下に移動した。彼らは並んで腰を下ろす。一息ついた時、隣からずいと腕が伸びてきた。その手には大きく膨らんだ革袋。
「飲めよ。このままだと倒れちまうぜ」
「ありがと、真喜志」
水の入った革袋を受け取ると、キリクは渇いた喉に流し込む。…流れた汗の分だけ身体は水を欲しているらしく、一回り小さくなった頃にはようやく喉に潤いを感じ始めた。もう一口飲んで、彼は腕で口元を拭う。
「………ふぅ」
「美味いだろ。此処の人間曰く、良質で新鮮な井戸の湧き水らしい」
「へぇ…こんなにいい水があったなんて知らなかったよ」
キリクは革袋を真喜志に手渡す。彼は革袋の口をきつく締めると横に置いた。
「こんな美味い水だから結構高くついたぜ。近くに本物の井戸がありゃ、飲み放題なんだがな」
あはは、とキリクが笑った。つられて真喜志も笑う。


――ソウルエッジを破壊してから、最初の夏が訪れた。彼らは南の孤島へ移り、のんびりとした旅を続けている。平穏すぎる日々は、彼らに戦いを経て受けた傷を癒すには十分な時を与えられたように感じた。また彼らには過去の傷痕も遠い昔のように思えてきた。キリクには身の内に巣食う邪気を封じ込め、真喜志はかつて力の代償に失った記憶を取り戻し。何時からか離ればなれとなった彼らは再び一緒になった。それは長い道のりの果てにたどり着いたもので。その意味では幸福だったかもしれない。
――いつしか彼らは、無言で空や海を眺めていた。風が流れて、髪が揺れる。波音が心地よく聞こえ、眠気を誘って。キリクはふと瞼が重くなった。その時だ。
「――なぁ」
真喜志が声をかけた。
「………ん?」
「キリクは…これからどうすんだ?」
「俺は……」
口にだして、それから少し考えた。師匠であるエッジマスターの待つ故郷へ帰るか、それとも、このままシャンファと真喜志とで平和の舞い降りた世界を旅をするか。

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