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〜10/03/23(花阿)



「口寂しい」


いきなり阿部がこんなことを言い放ったのは、俺の部屋にて二人でだらだらしていた時だった。
俺のベッドを一人で占拠してぼーっとしていた阿部は、視線を天井から離さないままぽつりと呟いたのだ。
俺はその横、ベッドに寄りかかって雑誌をめくっていたのだが、視界の端にうつった阿部はそんな様子だったので特に気に止めず、再び思考を雑誌に向ける。


「なぁ、なんか持ってねぇ?」

「なんかって?」

「ガムとか」

「あー…飴ならあるぞ」


そういって机の上にあったそれを手渡せば思いっきり嫌な顔をされる。
まあ予想はしていたので別に以外ではないが、そこまであからさまにやらなくてもいいと思う。
俺のせいじゃないし。


「飴って…なんで棒つきだよ」

「妹がくれんだよ。いらないならやらない」

「…いる」


俺が阿部に差し出したのは、某有名な女の子がプリントされたビニールに包まれている薄っぺらいそれで、味はたぶんグレープ。
なんとなく妹がくれたものだが、別に食べたかったわけではないので気にしない。

差し出した飴を受け取った阿部は、軽く勢いをつけてベッドから起き上がり、べりべりとビニールをはがしてそのまま無造作に飴を口の中に突っ込んだ。

今、阿部の口からは白い棒が突き出ていて何だか面白い。


「なんか懐かしい味がする」

「普通のグレープだろ」

「いや、何か違うって」

「ふーん」


適当に流しながら雑誌をパラ見する。
たいして面白くもない話ばかりだが。
あと少しで見終わるな、と残るページの厚さを確認している間も、阿部は飴をしゃぶりつつ、時折飴を出してはなんか違う、とか呟いている。
棒つき飴は、喋るときいちいち口から出さないといけないのが難点だ、なんてつまらないことを考えていた時、後ろ、ベッドの上に座っているであろう阿部から呼び掛けられる。


「花井、」

「あ?」


カッと音がたったかと思えば、すぐに広がる甘い味。
驚いて視線を下にやれば、そこには阿部が握っている白い棒だけが見えていた。
ああ、口に飴を突っ込まれたのか、先程の音は飴が歯にぶつかった音か、と状況を理解するのには全く時間はかからない。


「なぁ花井」

「ん?」

「これさ、間接キス」

「っ!」


にやり、と笑った阿部は、まだ飴を抜いてくれる気にはならないようで、仕方がないから少し口をもごもごして飴を舐めている感をアピール。
満足したのかそうではないのかわからないが、引っ張られて呆気なく出ていく飴を見送った。
そしてそれはそのまま…

阿部の口内へと戻っていった。
顔に熱が集まるのを感じるが、せめての強がりで表情だけは変えないよう努力する。
一度収まった飴をすぐに出して、またにやりと笑う。


「どーだった?味」

「…すっげぇ甘かった」

「何だそれ、飴なんだから当たり前だろ」

「いやわかんねぇよ?」


お前の食べ掛けじゃなきゃ、こんなに甘くはなかったよ、きっと。











(君はこんなに甘いのか!)




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