〜10/01/17(花阿?) ことの始まりは長い昼休みの、たった10秒ほどで行われたこんな会話だった。 「あ、花井、あれ貸して」 「あ?ああ、ほら」 「サンキュ」 なんのこともない、至って普通の会話だ。 その時は俺、水谷文貴も全く気にしなかった。 何事もなく昼休みが終わり、午後の授業も適当にやり過ごして部活、なんて考えていた、バカだな俺。 人間生きている間、いつどこで何が起こるかなんてわかるものじゃないのに。 つまり、俺は気付くべきだった。 あの時の会話の違和感に気付くべきだったのだ。 そうすれば一組や三組、九組…は七組にいるより何かが起きてしまいそうなのでちょっと遠慮するが、とにかく避難できたはずである。 しかも落ち着いた奴等に囲まれて、日頃のあれやこれやを吐き出しつつ、つかの間の癒しを獲得できたものを。 愚かな俺は、そんなチャンスに全然、これっぽっちも気が付かず、やっと気付いたときには時すでに遅し、もうどうしようもなかった。 「あ、水谷、あれどうした?」 「は、え?あれ?」 「あー、阿部、あれどうした?」 「あれならもう出してきたぞ」 「ああ、ありがと」 会話が終了した今でも、未だに「あれ」が何なのかわからない。 俺にも聞いた辺り、俺も知っているものだと思うが、全く見当がつかない。 出した?何を。 そして気が付いた。 …あいつら「あれ」で話通じるんだ… 一度気が付けばあとはすらすらと脳裏に浮かび上がってくる。 昼休みにもそんなことがあった。 そういえば日頃からそうかもしれない。 もう一度花井と阿部を見る。 異常なし。 耳を傾ける。 「そういえば花井、あれだけど」 耳を閉じる。 俺は静かに席をたった。 しかし、もう休み時間は5分と残っていない。 他のクラスに行くのは無理そうだ。 「水谷?どうかしたか?」 「あー…、ちょっと篠岡のところ行ってくる」 教室を見渡せば壁の方に友達と談笑する篠岡を発見。 楽しいとこ悪いけど、俺もうダメみたいなんだ。 「篠岡ー」 「ん?水谷くんどうかした?」 「篠岡、世の中にはさ、気付かない間に他人に迷惑をかけることがあるかもしれないよね」 「う、うん」 「たとえ本人たちに悪気がなくても、いや、悪くないんだけど、ちょっと周りが疲れちゃうことってあるよね」 「そ、そうだね?」 「…ごめん、なんか何が言いたかったのかわからないんだけど、」 「うん?」 「…俺、疲れちゃった」 「…お菓子、食べる?」 ああ、やっぱりさすが篠岡。 俺が大分危険発言(疲れちゃっただとかなんとか)をかましたのにあまり動じず、細く焼かれたクッキーの棒に、チョコレートをコーティングした超有名お菓子をすすめてくる。 俺の真剣(だと思う)な悩みはお菓子で解決出来るほどですか篠岡さん! しかし、ちょっと本当に精神的に疲れていた俺は何故か涙が出そうだった。 「篠岡ぁ!」 大丈夫、俺の心の拠り所は残ってる。 「で、どうしたの?」 「あー…本人たちは悪くないんだよ。ただ、俺が慣れてなかったというか、恥ずかしくなったというか…」 なんか花井と篠岡が目配せしてるみたいだけど、気にしない。 花井、心配してくれるのは嬉しいけど、なんか、うん。 いいんだよ、花井と阿部は悪くない。 ただ…恥ずかしいよお前ら! 素でやるな、素で! 俺の声にならない叫びは、誰の耳に届くでもなく、俺の心の中に響き渡った。 無自覚爆弾 (聞いてるこっちが恥ずかしい) (いい加減気付け!) [back][next] |