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その白さが恐ろしかった(沖神)

ここ最近は綺麗に晴れ渡っていた空も、今日は厚い雲に覆われて太陽が姿を見せていない。

そのおかげなのか、はたまたそんなことは関係ないのか、とにかくチャイナは元気よく俺に番傘(という名の凶器)を突きつけていた。

凶器、もとい番傘は、普段はその日差しに弱い体を守るために使っているようだが、今日は天気のおかげでその必要もないのか、身を守るというよりは相手を攻撃するという役目を全うしようとしている。
俺を攻撃しても身を守る事には繋がらないと思う(だって今俺は丸腰だ)、というよりも武器を向けられて反撃しない訳にはいかないので、あと三秒もしたら俺も刀を抜く。
かえって自分の身を危険にさらしているのでは、と思ったりもするが、ピンク色の頭の中身でそこまで考えが及んでいるかはわからない。

とりあえず腰にさしていた鞘から刀を抜き、向けられている番傘と同じように相手を狙った。


「ここで会ったが百年目ネ!サド野郎、覚悟するヨロシ!」


待っていましたと言わんばかりに飛びかかってきたヤツを最小限の動きでかわしつつ、横へ飛び退いて流れるままに刀を振り抜けば、何にも当たった感触は感じず、またひらり、一歩後ろへと下がる。

目があったチャイナはにやり、とよく見れば可愛いげのあるように見えなくもない(悪く見たらは言わないでおこう)顔で笑い、地面を思いっきり蹴ったかと思えば、次の瞬間には目の前まで迫ってきている。
すぐに降り下ろされる番傘、は、余裕で受け流したのだが。


「…ってェ」


今日の俺はどうにも鈍かったらしい。
普段なら息をするくらい自然に相手の動きを読み、攻略できたものを、今日に限ってわかっていても体がついていかなかった。
ここのところ土方のヤローに言われて真面目に書類仕事をしていたからだろうか。
土方クソヤロー帰ったら殺す。

俺の体勢を崩そうと狙われた足に番傘が迫る。
ヤバい、と気が付いたときにはすでに時遅く。
もしとっさに刀で防いでいなければ、骨の一、二本はやられていたに違いない。


「あー痛ェ、どーしてくれるんでィこれ骨折れたってマジで。」


実際のところとっさに刀で防いだ(完璧には無理だったけど)のが良かったのか、クリーンヒットは逃れられたようで、威力が少し弱まった状態で当たっただけなのだが。
ちょっと驚かせてやるつもりで大口を叩く。


「…お前今日具合悪かったアルか。」

「いや、元気ですぜ。」

「…わかったアル、もうお前とはケンカしないネ。悪かったナ。」


そういってチャイナは背を向けて遠ざかろうとする。


「ちょっ、待ちなせェ!」


怪我を、しかも足を怪我しているヤツを置いていくのか。
それに何より、

一瞬チャイナがすごく寂しそうな顔をしたから。

足を庇うように座り込んでいた状態から立ち上がろうとする。
しかし、大したことない、と思っていた足の怪我は少々酷かったようで、力を入れようとした瞬間激痛が走った。


「…っ、足折れてるくせに何立とうとしてるネ!」

「そいつを置き去りにしようとしたのはどこのどいつでィ。」

「あ、」

「逃げんじゃねーや馬鹿チャイナ。」


ぐらついた俺を支えてくれたチャイナに釘をさして、そのまま二人して座り込む。
さっきまでは靴で踏みつけていた川沿いの芝生は、座ってみると柔らかくて気持ちがよかった。


「…で、もう俺とは喧嘩しないとか。」

「…そうネ。」

「今日はお前から吹っ掛けてきたくせに、どういう心境の変化ですかィ?」


やはり、見間違えではなかった。
前を見るふりをして横目でチラ見したチャイナは、また寂しそうな顔をしていた。

いつも笑っているか怒っている表情しか見たことのなかった俺には、初めて見る表情だ。


「何泣きそうな顔してるんでィ。」

「…別に泣きそうじゃないネ。」


すげぇ。強く言い返してこないチャイナなんてもう一生拝めないに違いない。
少し感動を覚えた。


「嘘言ってんじゃねーや。いいから話してみなせェ、何が寂しいのか。」

「…つまんないネ。」

「何が。」

「…お前ともう喧嘩できないからつまんないネ。」


意味がわからない。
さっきは「しない」と言い切っていたのに、今は「できない」。
誰がやめろと言ったわけでもあるまいに、何がチャイナを止めるのだろうか。


「別に足は少ししたら治りまさァ。」

「違うネ。」

「…。」


ハズレた。
もう他に思い当たらないので直球でいくとする。


「何でダメなんですかィ?」

「…銀ちゃんが言ってたネ。私は力が強いから加減しないとダメアル。だから銀ちゃんは喧嘩はダメって言ってたけど、お前とは本気でやっても平気だったから楽しかったネ。」

「…もうダメなのかィ?」

「…だって怪我させちゃったヨ。私はあんまり加減できないからもう喧嘩できないアル。」


そう言ったチャイナはやっぱりどこか寂しそうだった。
何だか嬉しいのだが。

とりあえず少し俯き気味のピンク色に手をのせ、ゆっくり撫でる。


「コレは俺の不注意でィ。ちょっと疲れてたから気が抜けてたんでさァ。」

「…。」

「そもそもこの俺が本調子でお前みたいなガキに怪我させられるわけねェだろィ。あと骨は折れてない、ちょっとした冗談。」

「なっ…」

「だから、これからも喧嘩吹っ掛けてきていいんでさァ。ここ最近の江戸は平和すぎていけねェ。ちょっとした喧嘩ぐらいの刺激がないと暇すぎまさァ。」


実際のところ俺とチャイナの喧嘩がちょっとした、で済むかは疑問だが。
はっきり言ってやれば、俯いていたピンク色が少し持ち上がった気がした。


「…江戸の平和を守る警察のセリフとは思えないネ。」

「俺等が喧嘩できるうちは江戸も平和ってことでさァ。平和の証ってことでどうですかィ?」

「…そういうことにしておいてやるヨ。ほら、」


すくっと立ち上がったチャイナの背筋はぴんと伸びていて、真っ直ぐ前を見つめる瞳には強さが宿っていた。
差し出された手を借りて慎重に立ち上がると細い腕が腰にまわされた。
支えてくれるようだがこれはいささか恥ずかしい。
いやいや、密着度的においしいといえばそうだが、いやいやそうではなくて。


「…支えてくれなくても平気でさァ。肩だけ貸しなせェ。」

「何でもいいアル。屯所でいいよナ?」

「ああ。…そうだ、ちょっと屯所によってきなせェ。」

「何かあるのカ?」

「ちょっと土方のクソヤローを冥界送りにしなきゃならねェんだが、この足じゃ厳しい。だから手伝ってくだせェ。」


ニヤリ、と笑うとニヤリ、と返ってくる。

ああ、やっと笑ってくれた。


「しょうがないネ。付き合ってやるヨ。」

「ありがとうございまさァ。」


肩をかりて一歩踏み出し、また一歩、一歩と歩き進める。
隣を歩く小さな体の彼女は、天人であることで思いもよらず悩みを抱えていたようだ。
自分が少しでもその悩みの捌け口になれればいい、なんて柄にもないことを考える。

とりあえず今は二人で一緒に暴れに行こうか。










(知らない悲しみが溢れているようで)

(小さな体が押しつぶれてしまうほど)





これくらいの沖神が好きです(^^)
喧嘩仲間的な、ね。



お題配布元:徒花

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