仁王雅治(そんなに殴られたくないのか)
ジャッカルがちらちらとこちらを見るのは早く戻ってこいということか。
殴られたくないとか、プライドとか、そんなものは関係なかった。
この位置から後ろ姿を見ることなんてそうそうないなと思いながら自分がいるはずの場所を眺めると、負けたという事実がそれなりに重く圧しかかる。
らしくない、わかってはいるが釈然としない。
いっそ思いきり殴られたほうがよかったかもしれんのう。
そうは思っても、あそこに戻るのにはちょっとばかし時間がかかりそうじゃ。
「何してるの、こんなとこで」
かけられた声に振り向けば、一人の女。
そういえば、負け試合なんか見せたことなかった。
励まされるか、笑われるか、どっちかの。
…どっちもごめんだが。
パンッ
自嘲気味な笑いをもらした瞬間、響いた音。
殴られたとわかっても、予想外すぎる彼女の行動に驚きで何も言うことなんてできなかった。
女の力だからか頬はそれほど痛くはなかったが、それよりも注がれる視線のほうが痛い。
「…こんなとこにいちゃ、ダメなんじゃないの」
殴った手が痛いのか、もう一方のそれで軽く押さえながら下のコートに目を向ける。
同じように視線を移せば、さっきまで後ろ姿しか見えなかったメンバーたちも何事かとこちらを見ていた。
雅治がいなきゃいけないのは、あそこでしょう
…その通りだ。
本当は己でもわかっていたことを平手付きで女に諭されるなんて、俺もいよいよじゃな。
周りに気付かれないようにそっと息を吐いて立ち上がる。
痛みに耐えている彼女の手を軽く握り、きっかけを与えてくれたことにちょっとした感謝を伝えた。
そうだ。
何があっても、俺のいるべき場所は“ここ”じゃ。
(仁王はきっと誰よりも立海が好きなんだと思う)
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