忍足侑士(熱い人なんすね) あいつを倒さんと頂点へはいかれへんと思った。 勝った今、喜びとか安堵とかいろんなもんがごっちゃになって。 まだ痺れが残る手を眺めながら、何だかようわからん感情を持て余していた。 「…どやった?俺の試合」 何を言うでもなく隣にいた彼女に問うたのは、普段の俺やったら絶対に聞かへんこと。 聞かれた本人もそう思ったのか少し驚いたようで。 それでも特に考えることもなくさらっと返された一言。 「かっこわるかった」 「…なんや、つれへんなぁ」 「だってなんか必死だったし」 喉の奥で笑う。 本当に必死やった。 跡部がどういう試合運びを望んでいたかもわかっとったし、いつもだったら自己判断でそうするはず。 ただ、あいつだけは。 あいつだけは俺の全力で倒さなあかんかった。 熱い人だと言われたとき、自分はこんな人間やったかと思った。 ほんまに、かっこわるいわ。 せやけど。 「そういうほうが、好きだけどね」 それも悪くないと、そう思えるのはこうして受け入れてくれる奴がおるから。 返してくれるであろうと思っていた通りの言葉に、また少し笑う。 それを見て微笑む彼女もまた、自分の言葉を俺が予想していたことをきっと知っている。 こんな感じが、めっちゃ心地良くて。 いつのまにかあの持て余し気味だった感情と一緒に、手の痺れも消えとった。 (互いの胸の内とか全部わかりあってる二人だといいなー、と) ←→ |