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千石清純(空のした、勝つための決意)

テニスのことはよくわからない。
大体のルールだって、前に応援に来たときに覚えたくらい。
でも、今日の試合がすごいものだったんだと、そのくらいは私にだってわかる。

それに負けてしまった彼の気持ちは、私には理解してあげられない…と思う。
正直、なんて声をかけていいのかだってわからないでいるんだから。
案外、また負けちゃったって笑いかけてくれるのかもしれない。
沈んだ顔なんて、見せないのかもしれない。
笑っていてほしいのは、私の願望…?


テニス部の人たちが集まってるところへ顔を出すのがなんとなく躊躇われて、とりあえず水飲み場のようなところをうろうろしていたら、突然呼ばれた名前。
上のほうから聞こえたことに疑問を感じつつ顔を上げれば、オレンジ色が眩しくて。
屋根の上にいる彼はいつもと変わらなく見えた。

ああ、やっぱり笑ってる。
けれど、いつもとは明らかに違う笑顔。


「…また負けちゃった。メンゴ」


謝りながら、また小さくへらっと笑う。

―違う。



「私の知ってる千石清純は…」

「へっ?」



笑っていてほしかった。
笑っていてほしかったけど、こんな弱々しい笑顔を見たかったわけじゃない。



「私の知ってる千石清純は、女の子が大好きでいっつも鼻の下伸びてて。あんまり真面目に練習しないからいつも南くんに追いかけられてて。でもテニスが大好きで、本当は人一倍負けず嫌いで…簡単に立ち止まっちゃうような人じゃなくて、どんどん前に進んでいって。ときどき、置いてかれるんじゃないかと思うけど、私はそんなキヨが好きで」


私のわがままなんだ、こんな矛盾だらけの気持ち。
涙が出そうになったけど、必死で我慢した。


「笑ってるキヨが、大好きで」

「…知ってる。俺も大好き」


見上げれば、そこにはいつもの太陽みたいな笑顔。



「ありがと。…立ち止まったり、しないから」



光を失わないで。
その笑顔で、いつでも私を照らしていて。









「自分のテニスを変えようと思ってます…勝つために!」


彼が、そう決意するのは数分後。
もっともっと、強くなるまでもう少し。











(オレンジ=太陽、キヨには笑っていてほしいのです)



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