跡部景吾(全国へついてきな) 響き渡る、大歓声。 夏休み中の学校によくこれだけの生徒がいて、しかも集まったものだと思う。 みんなが望んでいたこと。 どんな形であれその望みが叶ったんだから、仕方のないことかもしれないけど。 「もう少し嬉しそうにしたらいいのに」 これでもかというくらい盛り上がっている輪の中から一人抜けてきた帝王。 あの大歓声を引き起こした張本人にそう言えば、舌打ちをしつつもこっちへ向かってきて。 「お情けみたいなもんだろうが」 「さっきはついてきなとかなんとか言ってたくせに」 うるせぇよ、と言いながら私と同じように壁に寄りかかる。 ほんの少し俯くと、綺麗なブラウンの髪から水滴がぽたぽたと落ちてきて。 よく見れば、まだだいぶ汗が頬をつたっていた。 彼の手にあるタオルを半ば強引に奪い取って、風邪ひくよと濡れた髪にかぶせる。 そんなヤワじゃねぇと言いつつも、私が髪を拭くのを拒もうとはしない。 それどころかそれから言葉を発しなくなってしまって。 珍しい、そう思いながら躊躇いがちにタオルの隙間から顔を覗きこめば、淡いブルーの瞳と目が合った。 「景吾?」 その吸い込まれそうな強い視線が外されることはなくて、もちろん私から外すこともない。 この長い沈黙の後に彼がとるであろう行動は予想がついたし、それは私自身も望んでいること。 しばらくしてさっと目の前が暗くなったのは、抱きしめられたせい。 「…勝ってみせて」 そっと背に手を回してそう伝えたら、いつものように喉の奥で笑って。 私を包む腕にさらに力を込めた後、小さいけれど自信に満ちた声が耳元をかすめた。 ―お前に勝利を捧げてやるよ― 汗のにおい、頬にあたる濡れた髪、キザなセリフ、その全てが愛しいと思った。 (複雑なはずの心境を彼女には垣間見せてほしい) → |