1 ありがとうございました。という声とともに、中から複数の作業着を着た男たちがぞろぞろと出て行った。 お世辞にも綺麗とはいえないアパート、だが平間浩介(ひらまこうすけ)はそれでも満足だった。 二十四時間バイトに明け暮れ、くたくたに疲れて帰ってきたら母親と父親がうるさく自分に付きまとう。 そんな実家が嫌いだった平間の念願の夢、一人暮らしが今日から始まる。 フリーターだった平間は、お金が有り余っているわけではなく、一番安くて汚いが家具が完備されている部屋を選んだ。 へとへとで帰ってきた体を休めるには十分だ。 だが、そんな安くて汚い部屋だ。 悪い噂がないわけがない。 『夜になると幽霊が出る』 引越しの作業をしているとき、たまたま近くのおばさんたちが噂をしているのを小耳に挟んだ。 ありきたりで、子供騙しのような噂だ。 平間は非科学的なものを信じる主義ではないし、ホラー映画も好きではない。 そのせいか、特に気に留めることも無かった。 「あぁ、疲れた」 バイトを掛け持ちしていた平間は一時期引越し業者のバイトを掛け持ったことがあった。 そのせいか、手伝わなくていいところまで手を出してしまった。 業者の人には有難がられたが、正直もう一歩も歩けない。 ベッドに寝転がると見慣れない天井が映し出される。 これから一人暮らしが始まることをようやく実感できた。 日頃の疲れもあってか、しばらくすると平間はすぅすぅと寝息を立てはじめた。 [次へ#] |