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神の過信


寿命の尽きた人工衛星は永遠に宇宙を漂う。打ち上げられたロケットの破片もスペースシャトルから切り離された部品も、みんな一緒に。放置されたそれらは宇宙のゴミとなる。初めてそれを知った時は愕然とした。人間は宇宙にまでゴミを捨てながら生きている。地球だけでなく宇宙も壊すのか。
神様がいたら、こんな人間達をどう思うのだろう。また創世記のように洪水で地球を作り直そうと考えるのだろうか。それとも「手の掛かる子ほど可愛い」という大人のように、こんな人間さえも愛しく思うのだろうか。






創世記6.7
そして主は仰せられた。「わたしが創造した人を地の面から消し去ろう。人をはじめ、家畜やはうもの、空の鳥に至まで。わたしは、これらを造ったことを残念に思うからだ。」

「どうかしているね。」
彼の言葉は春の柔らかな陽射しに溶けた。確実に春は近いというのに風は切り裂くように冷たい。低い桃の枝に手を伸ばす彼とは反対に、私は薄いジャケットの袖に指先まで隠した。
「先生は真面目な子よりも手の掛かる子を可愛がるよね。それが幼いながらに粛然としなかったんだ。」
それに、弱者はみんなで助けるのにがんばっている人は誰も救ってくれないからね。
彼は柔らかな笑顔のままこの風のように冷たく言葉を繋ぐ。
「それが、とても残念に思うよ。」


マタイによる福音書6.5-6
「祈るときにも、あなたがたは偽善者のようであってはならない。偽善者たちは、人に見てもらおうと、会堂や大通りの角に立って祈りたがる。はっきり言っておく。彼らは既に報いを受けている。だから、あなたがたが祈るときには、奥まった自分の部屋に入って戸を閉め、隠れたところにおられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れたことを見ておられるあなたの父が報いてくださる。」

彼の努力は夜に流す涙のようだ。その一切を見せようとはしない。けれど、確かに光る涙。
なぜ彼は報われないのだろう。会堂や大通りで祈るように誇示するための努力をしている人はたくさんいるけれど、彼は違うのに。なぜ神様には伝わらないのか。
彼の努力を知る私が彼に出来ることは何があるというのだろう。
カーテンを空けると夜空には星一つなかった。報いてくれる神様なんて、どこにもいない。






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