Momo 向かい側に座る彼の手元に目を落とす。彼は書かれている文字よりも余白の方が遥かに多いその本のページを、いつも読んでいる文字のぎっしりと詰まった本を読む時よりもゆっくりなペースでめくった。さっき聞いたその空白だらけの本を書いた長くて退屈な詩人の名前はもう忘れてしまった。 「楽しい?」 彼は手元から目を離さないままこたえた。 「詩とは、地上に生息しながら空中を飛行したがっている水棲動物の日記である。」 「なに、」 「詩を読んでいるなんて、退屈で素敵な時間だろう?」 彼は、いつの間にかしっかりと私を捉えていた。 向かい側に座る彼女の手元に目を落す。丸い輪にぴんと張られた布。彼女の白い手は上から下へ、下から上へとゆるやかに針を運び、一針ごとに白い布の花をあざやかに色付けていった。 「なんだか、文字通りの穏やかな午後ね。」 彼女は手を止めずに静かに、こうもゆったりしてると眠くなるわ、と続けた。 僕は彼女の手元を見ながら、このゆるやかな時間を刺繍のように記憶に縫い付けて色褪せないまま残せればいい、そんなことを考えていた。 口にしようとしたが彼女に詩の読みすぎだと窘められる気がして、黙って手元の詩集に目を落とした。 カール・サンドバーグ(1878〜1967) 詩とは、地上に生息しながら空中を飛行したがっている水棲動物の日記である。 |