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*近くて遠い
 ぐちゃぐちゃと、卑猥な音が鼓膜を叩く。

 「んぁ、ああ!」

 啓介が俺のいい所を突くたびに、自分のじゃないみたいな甲高い声が出る。それが嫌で口を押さえようとするのに、その手は縫い留められて、啓介の背中に回された。

 「ひゃあっ、っあ!イっちゃう・・・ん、」

 「っイっていいよ・・・!」

 強く腰を穿たれて、呆気なく射精する。一拍遅れて、俺の中に啓介のが流れ込んできた。

 「っ・・・」

 ゆっくりと啓介が出ていくだけで、背中に鳥肌が立った。汗で張りついた俺の前髪を分けて、額にキスが落ちてくる。とろけるような笑みを浮かべた顔がやたらと遠くに見えた。余韻に浸ることもせず、啓介はベッドの横にあったティッシュで、俺の精液と自分の体を簡単に拭き、ジーンズを穿いた。

 「腹減ったなー。牛丼でも食う?」





 「いただきます」

 「・・・いただきます」

 準備してるから風呂入っておいで、という啓介の言葉にうなずいて入浴してみれば、部屋には2人分の牛丼が湯気をたてて待っていた。こういうとき、こいつが俺と同い年ということを本気で疑いたくなる。
 ため息をつきながら口に含むと、炒めた肉と玉葱の風味が広がった。・・・旨い。

 「旨いな、これ」

 「マジ?良かったー」

 啓介はうれしそうに笑った。効果音でもつけるなら、ふにゃり、って感じ。俺がもし母性本能なんてもんがある女子だったとしたら、クリーンヒットだったんだろうな。俺がこんな顔をしても間抜けなだけだろうから、つくづくイケメンはズルいと思う。

 「これ食べ終わったらさ、俺帰るわ」

 「そっか、じゃあ洗い物」

 「いいよ、俺やっとくし、その間風呂入ってきなよ、」

 啓介、と言いそうになって無理矢理口を閉じる。

 「あー、じゃあ悪いけど頼むわ」

 訝しがる様子もない啓介に安堵する。俺たちは名前で呼び合うことはしない。そう2人で決めたわけではないが、暗黙の了解のようになっていた。そりゃそうだ、とひとり納得し、自分と啓介の茶碗を重ねて流しに運ぶ。

 俺たちは恋人ではないのだから。





あきゅろす。
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