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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の5

「で、話は変わるけど、あの二人はどうなったの? 一部では、教授達と揉めているらしいけど」

「それ、本当よ」

「ああ、やはり卒業は無理か」

「やっぱり。元々、アカデミーに在学している理由がなかったもの。今まで在籍していたのが、不思議だったわ」

「今回の件は、あいつ等にとってはいい薬だよ。散々、他人に迷惑を掛けてきたことだし。特に、イリアは大変だったよな。本当に、ご苦労さん。これで、やっと静かに生活が送れるよな」

 それは二人に対して厳しい意見であったが、イリアに投げ掛けられたものは同情が篭められたものであった。その言葉にイリアは頷くと、思わず俯いてしまう。今までの出来事を思い出したのか、涙ぐんでしまう。嗚咽を漏らすことはなかったが、微かに肩が震えていた。

「ああ、泣かない」

「苦労したよな」

「でも、大丈夫よ」

「そう、就職先が就職先だからな」

 次々と述べられる温かい言葉に、イリアは嬉しそうに微笑む。二人は巨大な敵に等しかったが、それ以上に優しい仲間が存在した。そのことを改めて実感したのだろう、何度も礼を言う。

「苦労した分、これから楽しめばいいのよ」

「そうよ! 邪魔者はいなくなったのだから」

 無論イリアには、それを行う権利があった。今まで苦労してきたのだから、それを取り返さないといけない。念願の就職先に、レベルの高い仕事が行える。これからの明るい人生、イリアは満足している。

「これって、御褒美ってやつかな?」

「それも、考えられるな」

「それなら、羨ましいって言えないわ」

「アカデミーの生活は、最悪だったからな」

 ユアンが勤めている研究所に就職したということで、仲のいいクラスメイトの間にも一種の嫉妬のようなものが存在していた。しかしこのように考えてしまうと、嫉妬してはいられない。

 それどころか「可哀想」という感情が、全員の心の中に湧き出してくる。同情によって生み出された、何とも表現し難い雰囲気。すると堪り兼ねた一人が、ポンっと手を叩く。そして、一人の提案を投げ掛けた。それは今から全員で、食事に行こうというものであった。

「どうだ?」

「そういえば、お腹空いたわ」

「よし! 決まり」

「イリア行くわよ」

 そのように言うとイリアの手を掴み、引っ張って行く。唐突な出来事に、イリアは何も理解できていない。しかし周囲は関係ないとばかりに勝手に話を進めてしまい、目的地にイリアを連れて行く。

 周囲にいた者達はアカデミーに不似合いな光景に驚くも、一部はクスクスと笑い声を発している。

 そして到着後、賑やかで楽しい食事が開始された。


◇◆◇◆◇◆


 アカデミーの帰り、イリアはトボトボと歩いていた。特に目的もなく、ただ帰宅の途につく。数年間、この生活を続けてきた。朝アカデミーに向かい、日が落ちた頃に帰宅をする。


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