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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の4

 しかし他の者達は、堂々と宣言している。イリアも同じことをすればいいのだが、恥ずかしいという感情がそれを遮ってしまう。告白は、早い方がいい。頭では理解していても、実行には移すことはできないでいた。

 だからこそ、静かに話を聞くしかない。それに他の者達とは異なり、イリアは有利な立場にいた。ユアンと同じ場所で働くことができ、何よりも仕事を頼まれているということだ。誰も、そのことは知らない。もし話してしまえば、ファンクラブの規則を反してしまうからだ。

 その時、ファンクラブの今後について疑問が生じる。これは、アカデミーの生徒が勝手に行っていること。卒業後は、一体どうなってしまうのか。そのことが気になったイリアは、間髪を容れずに訊ねていた。

「そうなのよね。ファンクラブは、勿体無いわ」

「残念ながら、終わりよ」

 返ってきた言葉は、予想通りのものであった。ファンクラブは、所詮そこまでのもの。いくらアカデミーの卒業生であったとしても、長々とひとつの事柄にしがみつくわけにもいかない。ファンクラブの会員だった者は、涙を呑んで諦めるという。そして、アカデミーを巣立っていく。

「でも、ファンクラブなんて凄いよな」

「芸能人並みの人気だし」

「当たり前よ。ラドック博士は、天才よ」

「そうだよな。あの能力研究を行っているんだから」

「天才って、いるものだな」

 憧れの世界で働いているユアンに、溜息しかもれなかった。望んだところで、簡単にはいくことができない世界。アカデミーの生徒の中にも挑戦した者が何人もいたが、残念ながら全滅した。

 ほんの一握りの天才が集まる世界。それだけで、憧れの眼差しを向けてしまう。だが、知らない者が多い。彼等が行っている能力研究というものが、どのような内容なのかを――

 だからこそ、興味が湧く。

「ラドック博士のような人達が集まって行う研究って、どのようなことを行っているのかしら」

「力の解明とかじゃないかな」

「それしか、思いつかない。皆はどうだ?」

「普通は、そうとしか思わないよな」

「その意見に、賛成」

 その言葉に続き、全員が首を縦に振る。真剣に考えたところで、それ以上の答えは思いつかなかった。さすがに、優秀なカイトスが行っている研究。普通の人間では、想像さえできない。

 それにより、大きく夢が広がる。そして、願う。自分達が、この世界で研究ができることを――

「でもな、そのような人物と会えたんだぜ。それだけでも、凄いことじゃないか。普通なら、会えないぞ」

「そうよね。私達って、運が良かったのよ」

 ユアンのことになると、全てが良い方向へと想像が働く。悪口を言う者はおらず、皆が絶賛してしまう。唯一反論をするとしたら、ソラだ。イリアはそのことを思うと、悲しくなってしまう。

 可能であるのなら、この発言をソラに聞かせたいと思ってしまう。しかしソラのような人物が、訪れていい場所ではない。あの時はカディオの付き添いということで偶々訪れたのだが、単独は厳しい。

 それにこのような場所で、ソラの正体がわかってしまったら――イリアもそのことはわかっているが、ユアンが絡むと感情が高ぶってしまう。ソラより、ユアンのことが気になってしまうのだ。故に、二人には仲良くしてほしいと思う。そうすれば、想いを一点に集中することができるからだ。


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