第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の2
――最先端の研究がしたい。
それは、純粋な好奇心――というのが、正直な本音であった。それに、ユアンと一緒に研究を行っていきたいという感情も含まれている。両親は、凄いと褒めてはくれた。それに、熱が入る。
無論、ソラも知らない。しかしこのことを教えなくとも、ソラは簡単に気付いてしまう。イリアの行動パターンは分析しやすく、ある意味で単純。いつもそのことを指摘されていた。
(教えたら、何と言うかしら)
相手が幼馴染だということで、真っ先にそのことを考えてしまう。それに今まで、色々と世話になっている。何も報告しないというのは失礼に当たり、内心何か欲しいと思っていた。両親から、卒業と就職祝いの両方を兼ねてプレゼントを貰う予定だ。そうなると、やはり――
(後で、連絡しないと)
物欲が、ないといったら嘘になってしまう。そのことに気付いた時のソラの反応は、火を見るより明らかだが、欲しいと思うのが素直な感情でもあった。それに幼馴染同士ということもあり、遠慮がなかった。ふとその時、イリアの名前が呼ばれた。何気なく声がした方向に振り向くと、数人の男女が此方に向かって歩いてくる。そして、満面の笑みを浮かべた。
「卒論、おめでとう」
「有難う。ちょっと、苦労したけど」
「そんなことないわよ。あれだけの内容だもの、通って当たり前。もし通らなかったら、それはそれでおかしいわ。それに、今まで苦労をしてきたのだから、少しは大目に見てもらわないと」
「そうよ。イリアの苦労は、アカデミーでは有名だもの。教授達も、そのことを知っていたのかもね」
イリアを含めて集まってきた者達は、卒論が通り卒業を控える面々だ。その為、誰もが晴れ晴れとした表情を浮かべている。そして持て余すのは、卒業までの短い時間。故に、噂話を暇潰しとした。
「卒論が終わったことだし、皆で何処かへ遊びに行かないか? 折角、友人同士になったんだし」
「それ、いいわね」
「卒業してしまったら、それぞれが仕事で忙しくなってしまうしね。私は、賛成よ。行きましょう」
それは、俗に言う卒業旅行であった。一般的には何泊かの旅行となるが、残念ながら彼等はそうはいかない。いくら暇といっても、それなりの準備を行わなければいけないからだ。
その準備というのは、就職のことであった。卒業が決まっている者は、無論就職先も決まっている。目的の場所へ就職できた者もいれば、そうでない者もいたりする。だが、多くの者は満足をしていた。
「卒業もそうだけど、就職おめでとう」
「面接、厳しかったな」
「うちの就職先の面接官、プライベートな質問ばかりしてきたわ。一体、何を考えていたのかしら」
「それ、最悪」
重荷から開放された影響だろう、どの生徒の顔にも笑顔が浮かんでいた。そして就職試験の時に体験した出来事を面白おかしく話しては、共に大声で笑い合った。だが、もうすぐ別れの時が来る。
イリアのように研究所に勤める者もいれば、一流企業に就職する者もいる。そして今いる場所から通えるという人物は少なく、多くの者達は新たに住む場所を見つけなければいけない。
そう考えると、イリアはいい就職先を選んだことになる。研究所は自宅から通える範囲で、何より顔見知りが多い。勿論上下関係は存在するが、相手が顔見知りかそうでないかの差は、意外に大きい。それに大勢のファンを持つユアンがいることは、かなりのポイントとなるだろう。
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