[携帯モード] [URL送信]

第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の1

 イリアは朝から、とても機嫌が良かった。それは、卒論で合格を貰ったということであった。何回も手直をし、提出した卒論。それ故に、この喜びを全身で表してしまう。だがアカデミーにいるという手前、それは恥ずかしくて行えない。しかし、この気持ちは抑えられない。

 よって、先程から口許を緩めている。厳しいということで有名な卒論の合格は、イリアだけではなく大勢の生徒を喜ばせる要因となる。さすがにレベルが高いアカデミーだけあって、簡単に合格が貰えないからだ。出席日数は特に問題はなかったので、後は卒業を残すのみ。

 その為、残りの日数は自由に過ごすことができる。

 だが、問題がないわけでもない。

 そう、あの二人の行動が心配だったりする。

 予想通り、二人は卒業できるかどうかで悩んでいた。

 しかし卒論の件もそうであったが、今まで行ってきた数々の問題行動が表沙汰にならないわけがない。

 それは無断早退にはじまり、他人のレポートを丸写し。または、追試問題を他の生徒に解いてもらう。悪行の数々は、多くの者達を悩ませた。まさに、アカデミーの名前に泥を塗る行為。

 それにより、留年か退学で揉めていた。

 だがそれは、自業自得である。日頃から真面目に物事を行っていれば、このようなことにはならなかっただろう。全ては他人任せにしていたツケが、最後の最後で足枷となってしまった。

 無論、イリアは救いの手を差し伸べない。

「これは、お前達の書いた内容ではないな」

 全ては、この言葉で露呈した。

 流石に数多くの生徒の卒論を見てきただけあって、一目でそれを見抜かれてしまう。いや、それだけではない。日頃の行いを考えれば、自ら進んで素直に卒論を書き上げるわけがない。

 案の定、それは正解であった。不正行為を行った者に、合格など与えるわけがない。それどころか問題定義は会議にまで発展し、どのような処分を行うか検討中。いまだに、結論は出ていない。いや、はじめから処分内容は決まっていた。しかし、態と時間を掛けているのだ。

 それは、思った以上の効果を見せている。会議に発展したということで二人は驚き、顔面は真っ青になっていた。そして真面目に卒論を書くと申し出るも、短期間で仕上がるようなものではない。そして何より、二人は卒論のテーマを考えていなかった。その時点で、終わっている。

 他人の卒論を真似すればいい。そのように考えていた為に、何をテーマにしていいのかわからないでいた。しかしテーマを決めたところで、最後まで仕上げられるかは不明であった。

 授業を真面目に受けていなかった者が高度な知識を理解し、更に自分なりの解釈を付けて纏めるということをできるのか。そもそも、何の為にアカデミーに通っていたのか。最早それに明確な理由はなく、ただの「箔をつける」程度のもの。それ以前に、他の生徒と考え方が異なっていた。

 レベルの高いアカデミーを楽に卒業できると考えている自体、間違っている。審議の結果次第で、卒業を間近に退学。そのような可能性も出てきた。だが今までの行動を考えれば、反論の余地はない。逆にあれだけの悪行を行っていながら退学にならない場合は、奇跡だ。

 しかし、悪い人間が得をすることはない。悪いことをした場合、同等の罰が待っている。それが、自然の摂理だ。

(やっと開放される)

 イリアは溜息をつくと、これから訪れる幸せに胸を撫で下ろす。これで、二人と付き合うことはない。イリアは卒業が決まっているが、相手は決まっていない。それに退学になったら、就職に差し支える。そして何より、イリアは就職先が決まっていた。そう、あの研究所である。


[次へ#]

1/22ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!