第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の1
今日は、アカデミーの卒業式。
イリアにとっては、待ちに待った日だ。
この日の為に、イリアは勉学を頑張っていた。苦しい日々を送っていたが、充実はしていた。
勿論、いい思い出以外に悪い思い出も存在する。
そう、あの二人だ。
アニスとディアーナ。
この二人の卒業は、予想通り無い。
それは、当たり前だ。あの状況で、卒業する方が間違っている。そもそも、卒論自体が危うい。
いい気味。
イリアは、着飾った自身の姿を鏡に映しつつ、そう思う。一瞬、言葉が悪かったと顔を顰めてしまうが、彼女達の行動を考えると仕方が無い。それだけ、悪いことをしているのだ。
不幸は、長く続かない。
その証拠に、イリアは充実した日を迎えた。
刹那、机の上に置いてあった携帯電話が鳴る。急に鳴った携帯電話にイリアは一瞬驚くが、一拍置いた後、普通に受け止めていた。そして携帯電話を手に取ると、メール送信者を確かめる。
(……ソラ)
見慣れた名前に、口許が緩む。
そう、卒業の祝いメールだ。
卒業、おめでとう。
無事に卒業できて、何より。
一時期、卒論で揉めていたけど自分で仕上げたようだね。
卒業祝いの件だけど……
また、後でメールする。
じゃあ、卒業式頑張って。
本当に、おめでとう。
文章の端々に引っ掛かる言葉が含まれていたが、これはソラらしい文面。それに、本気で祝ってくれている。それを感じ取ったイリアは、嬉しそうに微笑む。無論、ソラが卒業式に来ることはできない。しかし送られてきたメールで、彼が抱いている真情を読み取ることは可能だ。
イリアは、手馴れた手付きで返信用のメールを打っていく。内容は、受信したメールへの感謝の気持ちを入れた文章だった。卒業式の内容は、後で電話をすればいい。よって、短い文章だった。
(……有難う)
メールを送信し、携帯電話を閉じる。
刹那、頬が赤く染まった。
それは、数日前の出来事を思い出したからだ。
ユアンが開催したパーティーに呼ばれた後、イリアはソラの自宅へ向かった。その時に起こった出来事。まさに、不意の行為。予想外の一件に、思い出しただけで顔が赤面してしまう。
しかし、不快な気分は無い。
寧ろ、心地いい。
両者は、幼馴染の関係。
だが、徐々に変化していっている。
それを薄々、感じる。
だからといって、言葉に出すことはしない。それは、互いに置かれている立場を理解しているからだ。
だが――
想いは、募る。
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