第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の7
流石にそれは無いと思いたいが、彼女が行っている研究が研究。あながち、可能性は高い。
(本当に、これだったら……)
内心、ソラはそのように思う。別に、カイトスとしての道を選んだことを責めているのではない。
ただ――
少し、差を感じていた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
下手にイリアに気付かれると、数多くの質問が待っている。それにより適当にはぐらかすと、次の工程を教えていく。真剣に聞き入り、菓子作りと格闘していくイリア。それを静かに見詰めているソラは、再び疑問が脳裏を過ぎっていく。どうも、色々と気にしてしまうようだ。
正直ソラは、外見は普通でいいと考えていた。要は、内面が重要。下手に着飾っている姿は、逆にその者の愚かな一面を炙り出し滑稽だ。しかし、それを口に出して言うことはしない。
イリアはイリアで、おかしな部分でプライドが高い。一方、カイトスとして持ち合わせているプライドは――残念なことに、不明な点が多々見られた。一体、何の為に研究をしているのか。ソラは、以前より疑問視していた。無論、研究内容は知っている。しかし――
徐々に、イリアの観察が億劫になっていく。所詮、ソラはイリアという人間として生きているのではない。それ故、いくら思考を働かせても相手の感情を全て把握するのは不可能だ。
無論、相手も同じ。
だが、時に混じり合う。
それが、運命だった。
(……疲れた)
ソラはフッと息を吐くと、イリアに気付かれないように背を向ける。一方のイリアは、黙々と菓子作りに没頭している。シフォンケーキは、弾力性の高いスポンジが特徴の菓子。故に生地の中に、大量の空気を閉じ込めるように、ゆっくりとヘラを動かしていく。危ない手付きであったが、イリア一生懸命に菓子を作り続けていた。そして、菓子作りに楽しさを見出す。
幼馴染が料理が得意ということで、イリアは菓子作りを学びに来た。最初のうちは大丈夫かと心配していたが、今では面白くて仕方がない。多くの材料で、ひとつの物を生み出す。どうやら、一気に嵌ってしまったようだ。それにより、満面の笑みを浮かべながら材用を混ぜ合わせている。
それを見たソラは、内心ホッとしていた。イリアは研究に集中し、他の部分を疎かにしていると考えていたからだ。しかしこれを見ていると、普通の女の子に間違いない。やはり女の子。ソラにしてみれば、料理が上手い方がいい。また、懸命に作っているのは可愛い。
(本当に……)
しかし、それ以上に言葉は続かない。ただ静かにイリアの手元を見詰め、工程が間違っていないか確かめていく。
一通り、生地が混ざった。
後は専用の型に入れて、焼くだけ。
勿論、イリアは最適な温度はわかっていない。それによりオーブンの準備は、ソラが行う。
そして、焼き上がりを待った。
数十分後――
イリアが生まれてはじめて作ったシフォンケーキが、オーブンの中から取り出された。その瞬間、悪臭が漂う。
「く、臭い」
「ど、どうしたの?」
「……焦げている」
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