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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の4

 疑問に思いつつも、ソラはイリアのリクエストを素直に受け入れていっている。これも幼少期に生じたトラウマが、大きく影響していた。ソラは人一倍、孤独を恐れている。その為か、イリアの頼みごとを受け入れていく。それに、他の感情が働いていないといったら嘘になる。

 人がいいのか、悪いのか。

 ソラは、自分の生き方に苦笑する。

(まあ、今は――)

 再度感覚が鈍っている足の調子を確かめると、イリアが待っているリビングへ向かう。そして、何事もなかったかのように振舞う。一方イリアは、部屋で何をしていたのか訪ねようとはしない。それは、雰囲気で何となく察したのか。ソラが纏っているオーラは、何処か切なさが感じられたからだ。

 立ち尽くすイリアを横目にソラは、テーブルの上に置かれている材料を確かめるようにラベルの名前を見ていく。一応、シフォンケーキを作る材料は揃っていた。しかし、量が半端ではない。

「サイズは?」

「サイズ?」

 きょとんとした態度を見せるイリアに、ソラは項垂れ肩を竦めてしまう。作るサイズを指定してくれなければ、分量を測る時点で問題が生じてしまう。小麦粉が多ければ硬くなってしまい、卵が多ければ上手く焼き上がらない。一見簡単そうに見えて、菓子作りは奥が深い。

「サイズって?」

「ケーキの大きさだよ」

「えーっと、これくらいのサイズ」

「アバウトすぎ」

 本当は「何センチサイズ」という部分を聞きたいと思っていた。しかし相手は、料理が大の苦手のイリア。詳しく質問した所で、混乱するのは目に見えている。ソラはキッチンへ行くと、菓子作りに必要な道具を棚の中から取り出していく。一方のイリアは、立ち尽くすしかない。

「どうすればいいの?」

「ちょっと、待っていて」

「で、でも……」

「じゃあ、観葉植物の草取り」

「えっ!?」

「最近、草取りをしていないから」

 菓子作りから離れている仕事に、イリアは聞き返してしまう。しかしソラにしてみれば、そうしていてほしかった。それは、菓子作りに必要な器具がなかなか見付からないのだ。ソラにしてみれば、菓子作りは久し振り。よって、何処かに奥の方へ仕舞いこんでしまったらしい。

「わ、わかったわ」

「ご、御免」

 イリアは、窓際に並んでいる観葉植物に視線を移す。ふと、以前より個数が増えていることに気付く。それに観葉植物に混じって、花を咲かす植物が混じっていた。それは、とても美しかった。

「ねえ、これは?」

「ああ、懐かしいから購入したんだ」

「名前は?」

「スノーホワイト」

「聞いたことがあるわ」

「有名な花だよ」

「そうなんだ」

「栽培に手間は掛からないから、購入してみたら? 花が咲くと、結構いい香りがするから」

 その言葉にイリアは植物の側へ行くと、ツンツンっと指先で突っ突いていく。すると漂う甘い香りに、顔が徐々に穏やかに変化していく。やはり、イリアは女の子。研究に熱を入れていても、このような物が好きなようだ。そんなイリアの後姿を見詰めていたソラは、ふとひとつの言葉を思い出す。


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