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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の3

 乾いた音が響く。

 それに続き、ドアがピッタリと閉じられた。

 寝室は、カーテンが閉められているので薄暗い。そして、最低限の物しか置かれていない。

 寝室の内装は、その者の内面が表れる。

 そう、誰かが言っていた。

 しかしソラの内面は、想像以上に複雑。故に、内装から彼の心理状態を割り出すのは難しい。

 ソラは部屋の隅へ向かうと、掃除が行き届いている棚の中から四角い箱を取り出した。何の変哲もない箱の中に入れられていたのは、特殊な形を持った注射器と透明な液体が入ったアンプル。これは、一種の麻酔薬。イリアの為に、ソラは使用を決断した。それも、一本では済まない。

 故に、麻酔薬の使用を拒否した。

 二十歳に近い年齢の身体で、麻酔薬の耐性が付きつつある。実に、ソラの生き方は悲しい。

(まったく)

 溜息と同時にソラは一本のアンプルを手に取ると、親指で簡単に蓋を折った。そして、注射器の中へ入れていく。これは一般的に医療現場で使用されている麻酔薬より、濃度は濃い。それだけ、ソラの身体の耐性が高かった。それにより、高い濃度の薬を欲しいと思う。

 注射の打つ位置は、わかっている。長年、痛み止めを使用しているので、人体は熟知していた。透明の液体が、光を反射させる。そして白い肌の上に押し付けた瞬間、高圧の圧力を持って体内に投与する。何度、使用してもこれは慣れない。それどころか、使用する度に心が同時に痛み出す。

 一本目の注射の後、二本目の準備に入る。先程と同じようにアンプルの蓋を折ると、液体を注射器に入れる。そして、二回目の注射を打つ。暫くした後、徐々に麻酔が効いていた。その証拠に、鈍い感覚が広がっていく。ソラは徐に麻酔を打った足を叩き、感覚を確かめた。

(まだ、大丈夫か)

 二本で効果が出なかったら、三本目の使用を考えていた。しかし今回は、その必要はない。そのことに、ホッと胸を撫で下ろす。大量の薬の使用による副作用は、ソラは身を持って知っている。

 知っているからこそ、自分自身の足に麻酔を打つことに自己嫌悪に陥ってしまう。しかし、今回は特別。いや、特別といったらイリアが悲しがる。ソラは何度も溜息をつくと、そそくさと片付けていく。そして一部の人間にしかわからないように、隠すように棚の中に入れた。

 麻酔薬は毎回、タツキが特別に用意してくれている。無論タツキも不用意に使用してはいけないと注意を促しているが、今回は使用しないわけにもいかない。イリアが、料理を作っているという話は聞いたことがない。そうなると真剣に教えないと、とんでもない物が仕上がる。

 一応、研究面では真面目にこなしているらしい。しかし、それが家庭面に及ぶとからっきし。ソラにしてみれば家庭的な一面が強い方がいいが、流石に無理強いはできないのが現状。

(今回――)

 悪い予想は、確信へと変化していく。お菓子をどのように使用するかは、何となく理解できる。だが、その背景に隠されている物を考えていくと、素直に教えるという気分になれない。それに、不利益が大きい。現に、足に麻酔薬を二本使用した。それにより、身体への影響は計り知れない。

 イリアという存在は、ソラにとってどのような存在か。

 ただの幼馴染か。

 それとも――

(……だが)


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