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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の8

「古い?」

「す、すみません」

「確かに、古いね」

「その……このような場所は、滅多に見たことがなかったので。決して、悪い意味ではないです」

「確かに、この惑星(ほし)の文明は高い」

「で、ですから……」

 懸命に言い訳をしているイリアは、現代っ子。今の文明にどっぷりと浸ってしまうと、このようになってしまうのだろう。固定概念が生み出した偏見の一種。しかし、ユアンはそれを否定することはしない。研究所を含めアカデミーの生徒の中にも、このような人物が存在している。

 自分達の文明が、一番。

 それ以外は――

 人間は、目下の存在を無意識に生み出す。イリアは相手がユアンであったとしても、それを平然と行ってしまう。確かに、古臭い一帯。しかしユアンは、生活面で不便を感じてはいない。寧ろ、静かで暮らしやすい。何より、二階の窓から美しい海の光景を見ることができる。

 それを気に入ったユアンは、この家を購入したという。するとそれを聞いていたイリアは、反射的に質問を投げ掛けていた。この年齢で、家を購入した。正直、信じられなかった。

 ユアンと同等の地位に就けば、若くして家を手に入れることができる。しかし、ユアンと同等という部分に問題があった。イリアは、見習いカイトス。それに、生来の天才ではない。生まれた瞬間から、差が生じているとは。イリアはユアンの家を見つつ、溜息をついた。

「凄いです」

「そうかな。個人的な理由で、購入している。それに、滅多に帰っていない。仕事が忙しいと、研究所に泊まっている」

「では、ご両親は……」

「一人暮らしだ」

「えっ! それでしたら……」

「そう、個人用の家だ」

 それを聞いたイリアは、目を丸くしてしまう。そして悲鳴に似た叫び声を発し、この一帯で暮らしている者達を驚かせた。突如響き渡った、絹を切り裂いたような声音。勿論、多くの者達が建物の中から飛び出してきた。そして、何が起こったのか口々に訊ねていった。

 自身の影響で多くの人物が集まってきてしまったことに、イリアは俯き赤面してしまう。見兼ねたユアンは代わりに説明していくが、なかなか信用してくれない。それだけ、悲鳴にインパクトがありすぎたのだ。それにより全員が信用してくれたのは、この後十分も掛かった。

「私、何ということを――」

「日頃の研究より大変だったが、これくらいは慣れている。煩く言ってくる者達よりは、いいものだ」

「私はラドック博士に、必要以上に迷惑を掛けていますね。このようなことで、お手伝いを……」

「大事に、発展はしなかった。だから、気にしなくていい。それより、中に入ろう。立ち話は辛い」

「はい!」

「さあ、中へ」

 ユアンの案内で、イリアは建物の中へ入っていく。外観は古めかしい印象を持っていたが、中の雰囲気は異なっていた。落ち着いた色彩で統一されている家具。それに、これはユアンの趣味か。花や絵画が飾られている。また綺麗に掃除された床は、陽光を反射し眩しい。イリアが知っている異性の部屋というのは、幼馴染のソラのみ。その為、その違いに唖然となってしまう。


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