第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の6
ファンクラブに登録している会員の大半は、ユアンの言葉と態度に一喜一憂してしまう。それは過剰反応に思えなくもないが、彼女達はそれをおかしいと思ったことはない。そう、周囲に同じ人間が多く存在しているからだ。誰も、指摘しない。誰も、おかしいと思わない。
彼女達は、狂信者。
一種の宗教団体に等しい。
「そういえば、部下達も同じことを――」
「それは、当たり前です」
「そうなのか?」
「はい。皆様の憧れの人物ですので」
「僕は、偉くはない」
「いえ、立派です」
しかしユアンは、その意見を否定していた。確かに、多くの研究で成果を収めてきた。だが、それは部下達の力も関係していて、決して一人の力で物事を遂行したのではない。そのことを苦笑しつつ説明していくユアンはイリアに、本当は弱い人間だということを伝えていく。
勿論、イリアはそれを信じようとはしない。ユアンの何処か、弱いというのか。年齢に関係なく多くの部下を束ね、研究では名が残る功績を出している。そしてカイトスの中には、彼を目標としている人物は何人もいる。その人物が、弱い――イリアは、反射的にユアンの言葉を否定していた。
「過大評価だ」
「いえ、ラドック博士は――」
「いや、違う」
イリアは、世の中のどす黒い部分を理解していない。していないからこそ、物事の表面しか見ていなかった。ユアンが言う「弱い」という言葉は、実力を示しているのではない。それは、精神面と己の立場。その他、多くが混じり合い「弱い」と、ユアンは言っていたのだ。
しかし――
このようなものかと、ユアンは勝手に納得してしまう。イリアは、アカデミーの学生。真面目に講義を受け、真面目に研究に励んできた。それだけで、人生の勉強ができるわけがない。無論、それはイリアだけではない。アカデミーの生徒ファンクラブの会員も、同じだった。
純粋。
そう、イリアは純粋だ。
しかし同時に、脆い一面も兼ね備えている。現にイリアは、自身が望んでいることをそのまま遂行しようとしていた。だが、これからはそれではいけない。特に、研究所で働くようになってからは。
それを指摘してもいい。
だが、それは今ではない。
今、それを指摘した所でイリアは受け入れることはない。研究所で働き、苦労をする。それにより、ユアンの言葉の本質を知ることになる。カイトスとしての、真の生き方を――
「そうだ。先程の話の続きをしていいかな」
「先程?」
「徹夜と肌の話だ」
「あ、あれは……」
「アカデミーの時と、今のランフォード君と違う。何か、心境の変化があったのかと思って」
アカデミーに在学時、イリアはファッションに興味は持っていたが化粧はしてはいなかった。研究に情熱を注いでいたのが主な理由で、このように綺麗に整えるようになったのはアカデミーの卒業が正式に決まり、尚且つユアンとのデートをすると決定してからだった。
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