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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の2

「続きは、車に乗って話そう。立ち話は、通行人の邪魔になってしまう。それに、行く所がある」

「それは?」

「内緒だ」

「怖い場所ですか」

「そのような場所、この惑星(ほし)にはない」

「それなら……ラドック博士の言葉を信じます。ラドック博士は、信頼がある人物ですので」

「買い被りすぎた」

 事実、それは本当のことであった。ユアンの信頼度は、予想以上のものがある。多くの科学者(カイトス)は「ラドック博士の意見だから――」と、信じてしまう。彼には、それだけの魅力を有していた。

「さあ、中へ」

「はい!」

 今回は、素直に車に乗る。以前とは異なり、その動きに躊躇いというものは感じられない。今日という一日が、永遠に続けばいい。しかし、時間は無限ではない。だからこそ短い時間の間、精一杯に自分というものをアピールしていく。そして、ユアンの愛情を勝ち取る。

 将来、一緒に――

 夢は、大きい方がいい。しかし、相手は偉大で遥か遠くに存在している。そのような人物と仲良くなるには、どうすればいいのか。アピールといっても「何か」という物が思い付かない。

 相手が、ソラであったら簡単だ。特に、気にしなくていい。幼馴染なので、気を使わなくていいからだ。しかし、ユアン相手にそれを行ってはいけない。全ては、いい方向へ――熱が入る。

「車を出す」

「あっ! 待って下さい」

 イリアは急いでシートベルトを着用すると、ユアンにすまないという気持ちを表す。だが、ユアンの感情と態度は先程と一緒。彼にとってシートベルトの着用は、大事に分類されない。

「では、改めて出発」

「はい」

「二回目だね」

「えっ?」

「一緒に、車に乗るのは」

「そ、そうでした」

 ユアンの言葉に、以前の出来事を思い出す。あの時は、一緒に食事に行った。そして、今日は――

 心臓が、激しく鼓動している。先程はそれほど緊張していなかったというのに、狭い空間にいると意識した瞬間、正常が感情を保つことができなくなってしまう。妄想が、広がっていく。

 それは過度に膨張し、多くのシュミレーションを生み出していく。その中のひとつが、共に研究をしているというものだ。

 尊敬している相手と、一度は経験したい。それはイリアの夢のひとつで、いまだに叶っていない。その為、妄想という名前を借りて外に出てしまう。しかし、言葉に発してはいない。

 ただ、顔が徐々に真っ赤に染まっていく。それを気付かれないように、必死に隠していく。

 だが、それが逆に違和感を生み出していった。勿論、ユアンはわかっている。しかし遅刻の一件といい、何も言わない。

 そして言葉に出してしまったら、イリアは今以上に動揺してしまう。ユアンの心遣い。それが適切かどうか不明であったが、イリアはそうだと勝手に思っている。憧れの相手に色々と当て嵌めていくのは、乙女の妄想としては一般的のもの。特に、恋する女性はそれが強かった。


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