第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の8
「面白い考え」
「俺は専門家ではないから、間違っているかもしれない」
だが、タツキは頭を振る。どうやら同意見らしく、特に異論を述べることはない。しかし、自身の結婚は否定した。結婚は、今は考えられないという。タツキに言わせれば、全てを片付けたら結婚を考えたいらしい。
しかし――
それがいつになるかは、わからない。もしかしたら、永遠に無いという可能性が高かった。だが、タツキはそれを受け入れた。これは自分に課せられた運命というばかりに、全てを――
「ところで、ご飯は?」
「ああ、そうだった」
「どうも、貴方と話すと暗い話になってしまうわ」
「仕方ない。互いの職業が、あれだからな」
「まあ、そうね」
互いに、苦笑をしてしまう。しかし、それは仕方がないことであった。ラタトクスの立場を思えば、このようになってしまう。何より、普通に過ごしている間も彼等のことを考えてしまう。それだけ、思いが深かった。いや、タツキの場合は違う。これは、一種の愛情だ。
「何を作ってくれるの?」
「肉料理」
「男の人って、肉料理が好きね」
「それ、偏見だな」
タツキの言葉に、間髪を容れずに反論していた。男だからといって、肉料理が好きだとは限らない。現にソラは、肉料理をあまり好まない。どちらかといえば、魚や野菜関係を好んだ。
それは体質も関係するだろうが、クリスにしてみれば肉食はタツキであった。外見は、痩せている。しかし、タツキは大食いに近い。食べる量といえば、ソラの二倍はあるだろうか。
冷静な分析でそのことを伝えると、タツキは横を向いてしまう。どうやら痛いところを突かれたのか、額に汗が滲み出ている。
「なら、何がいいんだ?」
「肉料理でいいわ」
「やっぱり、それか」
「何か、文句あるの」
「いや、別に」
これ以上の会話は無用だと判断したクリスは肩を竦めると、キッチンへと向かうことにした。
冷蔵庫を開き、食材を探す。しかし、料理に使えそうな食材が見つからない。大半が調味料類。それに、アルコールであった。これが、女性宅の冷蔵庫。思わず、タツキの顔を見てしまう。
「何よ」
「材料がない」
「そう。この前、買っておいたと思ったけど……無くなってしまったのね。大量に買っておいたのに」
「タツキのこの前は、当てにならない」
「あら、酷いわ」
「そう思うのなら、これを見ろ!」
「ほ、本当ね」
どうやら、滅多に自炊をしないようだ。大半を外食で済ませてしまっているのだろう、所々が汚い。
クリスはタツキに気付かれないように、冷蔵庫の汚れ具合を調べた。先程と同じように、人差し指を這わす。その瞬間、ザラっとした質感が指先から伝わってくる。これは、粉末系の調味料か。女性が使用しているとは思えない冷蔵庫の中。クリスは、肩を竦めるしかない。
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