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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の7

「何、いきなり」

「質問に、答えてほしいな」

「素敵な相手がいたら、考えてもいいわ」

「そうか」

 呟くようにそう言葉を発すると、深い溜息をつく。そしてタツキから視線を外すと、肩を竦めていた。それは余所余所しい態度であり、いつものクリスには似合わないものがあった。

「どうしたの? いきなり」

「別に、いいだろ」

「ムキになって、可愛い」

「う、煩い」

 クリスの口から「結婚」という単語が出てくるとは思わなかったらしく、タツキは冗談だと受け取ってしまう。

 しかし、クリスは真剣に質問をしていた。それは自身の恋愛というわけではなく、タツキの将来が心配であった。不真面目な生活を送っている女性。普通に結婚できるとは、思えない。

 今のままでは、一生独身は決定。だがタツキのような女性にしてみれば、一生独身の方が楽だ。

「お前の将来が、心配だ」

「アタシの心配をする前に、自分の心配をしないと。結婚を口にするのだから、将来はするのでしょ?」

 予想外の反撃に、クリスは何も言えなくなってしまう。確かにクリスは、結婚したいと考えていた。それは「いい人がいた」ということが前提で、今すぐに結婚したいということではない。それに、いまだに運命の人には出会ってはいない。無論、タツキは論外である。

 二人は、元同僚の友人同士。其処から恋愛感情に発展することは、無いに等しい。これで少しは料理が上手ければ見方が変わってくるのだが、しかし腕前はクリスの方が上であった。

「その表情は、したいと考えているようね」

「悪いか」

「悪くはないわ。普通に人生を送っていれば、いつかは結婚をするものよ。ただ、人によっては、わからないけど」

 以前タツキは、自身の結婚観について語ったことがあった。それは、研究所で働いていた頃の話だ。あの時タツキは「結婚とは表面上の制約」と、言っていた。そもそも、結婚とは如何なることを示すのか。意外にその答えは難しく、適切な回答を述べられる者は少ない。

 その人物によって捉え方は異なり、全く別の理論を繰り返す者もいる。愛する者同士、いつかは結婚を望む。しかしタツキにしてみれば、好きなら好きのままでいいと思っていた。しかし、何故「結婚」という形式を取るのか。当時そのように質問を投げ掛けられたクリスは、何も答えることはできなかった。だが今は、正しい答えではないが彼なりの答えを述べることができた。

「結婚は、すると思うな」

「アタシが?」

「以前、俺に質問しただろ。結婚の意味合いを――」

「そういえば、したわね」

「俺なりの考え方だが、要は証拠が欲しいんだと思う」

「証拠?」

「お前が言っていただろ? 別に結婚などしなくても、好き同士ならそのまま暮らしていればいいと」

 それは物事の本質を示す、内容であった。結婚は、法が決めた夫婦関係。揺ぎ無いそれは安心感を生み出し、互いを強く結びつける。愛し合っている者同士とはいえ、それは完璧ではない。だからこそ、それを強固に結びつける「何か」が、必要であった。それが結婚という行為であって、大きな意味合いが存在していた。だからこそ、それを望む者が多い。


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