第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の5
「わかったわ」
「甘いな」
「別に、いいでしょ」
「悪いとは言っていない。そうなってしまうのは、仕方がない。お前は、苦しい思いをした」
しんみりとした話に、タツキは頷く。壮絶な体験と経験をしたからこそ、能力者を偏見の目で見ることはない。おかしな人物だと思われてしまうが、彼女にとっては、関係ない。ただ、物事の本質を見抜くことができない人物が嫌い。特に、表面を見ていない人間は最悪だ。
だからこそ、必要以上に心配してしまう。それが相手の負担になることはわかっていたが、止められるものではない。この場にソラがいたら、タツキは思いっきり抱きしめていた。そして楽しい食事会を開こうと、満面の笑みを浮かべながら伝える。勿論、クリスも同じだ。
日頃の憂さを晴らすというのが本来の目的であったが、実は違う意味も含まれていた。「ソラの悩み相談」彼の場合、本当に苦しくならなければ本音を話そうとはしない。それだけ、強情なのだ。
だからこそこのような機会を作り、本音を聞きだそうとしていた。美味しい食事と美しい風景を見れば、口が開く。何とも安易な考えであったが、こうでもしなければ聞き出せない。
タツキは母親のような存在の為、守らなければ――という感情が空回りをし、時として自爆してしまう。しかし、クリスは生暖かく笑って見守ってきた。長年の付き合いだからこそ、この関係と距離感が保てる。知らない者がタツキの性格を見たら、頭を抱えてしまう。
それほど、タツキは過激だった。
「でも、懐かしいわ」
「そうか」
「不謹慎?」
「他の人間が言ったのなら、不謹慎だ」
「アタシはいいの?」
「まあ、そうだな」
「そうね。アタシは……」
「思い出さなくてもいい」
同じ言葉も、語る人間によって意味合いが異なる。物事を言葉で表す場合、その人が歩んできた人生が大きく左右し、何も知らない者が適当に語った場合、其処に力など含まれない。タツキは、違った。想像を絶する人生を歩み、今に至る。故にラタトクスを守る気持ちは、人一倍大きい。
「さて、暗い話は終わりだ」
「……ええ」
「よし! 飯、作る」
「貴方が?」
「いけないか」
予想外の提案に、タツキは目を丸くしてしまう。クリスはその反応が気に入らなかったのか、足を組みブスっとした表情を浮かべつつ、自分が料理を作ってはいけないかと訊ねた。
「そんなことはないわ」
「なら、いいだろ?」
「構わないわ」
「よし、それなら作る」
「期待しているわ」
料理を作ってくれるということに機嫌を良くしたのか、タツキの口許は緩んでいた。しかしクリスにしてみたら、複雑な心境が強かった。料理に関して、タツキは口出ししてはいけない。無論、手出しも不要。掃除や洗濯は人並みにできるが、料理の腕前は一般レベルより低い。
何より、味付けが濃い。あの料理を食べ続けていたら、確実に病気になってしまう。今のところ、何ら健康被害は報告されていない。しかし数年後先、それが同じとは限らないだろう。下手をすれば、入院になってしまう。いや、味覚障害か。どちらにせよ、体調は悪い。
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