第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の2
そのように説明されたところで、納得できる内容ではない。条件反射ということは、日頃から手を上げているという証拠であった。それを自覚していないタツキは、ある意味で恐ろしい。
しかしこれもまた、口に出すことはできない。言葉として発した瞬間、間髪を容れずに裏拳が飛んでくる。一時期、カイトスとして働いていたタツキ。カイトスはインドア派が多いと思われるが、タツキの場合は違う。バリバリのアウトドア派であり、張り手に関しては並みの男を凌駕する。
「まさか……」
「それは、ないわよ」
「何も言っていない」
「言わなくとも、わかるわ。ソラ君のことでしょ? 大丈夫よ。彼を殴ることは、しないわ」
それを聞いたクリスは、ホッと胸を撫で下ろす。さすがにソラまで殴っていたら、タツキを見る目が変わってしまう。現に良い印象を持てないでいるというのに、それが更に悪くなったら――
タツキが目標としている品のある女性から、かけ離れてしまう。クリスは痛む腹を撫でつつ、ふらつきながら立ち上がる。しかし、作業の手伝いはできない。インドア派のクリスにとって、今の攻撃は気絶してしまうほどの衝撃であった。だが気合と根性で、意識を保つ。
顔に滲む脂汗を拭うと、タツキを凝視する。行動のひとつひとつを観察しているつもりであったが、結論を出す前に溜息がもれた。それだけタツキの行動は予測不可能であり、理解しがたい。
「気分が悪い」
「あら、病気かしら? それなら、診断してあげるわ。ただ、料金は貰うわよ。きちんと稼がないといけないから」
「違う」
「無理はいけないわ」
自身が行ったことを忘れてしまったのだろう、鼻歌を歌いながら洗濯物を干していた。流石に重要なことを忘れることはないが、タツキは自身の都合が悪い出来事は記憶から消すのが早い。
そのことを知っているクリスは指摘するだけ無理とわかっているので、それ以上の追求はしない。ただ「茶の用意をしておく」と伝えると、地面に置いてあった箱を持ちタツキの家へと向かう。
「もう、根性なし」
吐き捨てるようにそう呟くと、パンっとシーツを叩く。そして残った洗濯物を干していった。
建物の中に広がるのは、コーヒーの香り。どうやら豆を挽いてコーヒーを落としているのだろう、インスタントコーヒーとは異なる独特の香ばしい香りが鼻を擽る。その香りにタツキは頬を緩ませながら、クリスがいると思われるキッチンへと向かうと、お茶の用意を手伝う。
「コーヒーでいいか?」
「ええ、構わないわ」
「持ってきたのは、マンゴープリンだ」
「あら、嬉しいわ」
「好きだろ?」
長い付き合い同士、互いの好みはわかっていた。タツキの好物は、マンゴープリン。何か込み合った話をする時には必ず用意し、これを食べながら相談を行う。その理由として、タツキの精神を落ち着かせる効果があったからだ。いかんせんタツキは、頭に血が上りやすい。
特に特定の人物に関してそれが起こりやすく、感情が爆発した場合相手がクリスであったとしても止めることはできない。それなら、ソラが止めに入る――という方法も考えられるが、果たして効果があるか。何せ、頭に血が上ったことにより周囲が見えなくなってしまうからだ。
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