第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の1
冬という季節だというのに、今日は朝から暖かい日差しに恵まれていた。いつもなら窓を閉め切っている時期であるが、空気の入れ替えの為にタツキは、窓を大きく開くことにした。
窓を開けた瞬間、心地良い風が室内へ飛び込んでくる。肌寒いという感覚はない。寧ろ絶好の洗濯日和であった。
ここ数日間、溜まっていた仕事を片付けていた影響で、一切洗濯を行っていない。それにより部屋の中には大量の洗濯物が山積みにされ、夏であったら悪臭を放っていたと思われる状況に陥っていた。
女性の独り暮らし。それにより生活面はいい加減となり、男の寡暮らしと同等の生活スタイルとなってしまった。
普段、客人が訪れることの少ないタツキの家。しかし、今回は違った。珍しくクリスが訪れることになっており、流石に汚い部屋の中を見せるわけにはいかないと、朝から掃除と洗濯に勤しむ。
タツキは男っぽい一面を見せることもあるが、正真正銘の女性。故に毒を吐く間柄の人物であろうとも、それなりにきちんとした一面を見せたいと思う。だが、時間までに間に合わなかった。
「おっ! 珍しいことをやっているな」
その声に続き、クリスが姿を見せた。手には土産だと思われる箱を携え、不適な笑みを浮かべている。その理由は、滅多に見ることができないタツキのエプロン姿が関係していた。
「手伝おうか?」
「いいわよ」
「なら、中で待たせてもらう」
「酷いわね」
踵を返し建物の中へと向かおうとしていたクリスの背中に、タツキの鋭く尖った台詞が突き刺さる。その言葉にクリスはゆっくりと振り返ると、いつもの毒吐きを開始した。無論、タツキも負けはしない。
「手伝ってほしいのなら、最初から言えばいい」
「別に、手伝ってほしいわけではないわ」
「なら、行くぞ」
「見捨てるのね」
その一言に、クリスは盛大な溜息をつく。それはか弱い女性が発した言葉であれば絵になるだろうが、タツキの場合は違う。相手が大柄の男であろうと、彼女は打ち負かす。そんな力を持つ人物が「見捨てる」という言葉を発する時点で間違っており、何より似合わない。
しかし、タツキは本気であった。そしてクリスが見捨てることを選んだ瞬間、予想通りのことを行おうとしていた。タツキの目が怪しく光る。それにより、クリスは助けることを選択した。
土産が入った箱を地面に置くと、クリスはプラスチックの籠に入れられたシーツを干していく。その手馴れた手つきにタツキは驚いてしまうが、クリスも独り暮らし。それを思い出すと、独り納得していた。
「あら、優しい」
「お前が、そんな目で見るからだよ」
「乙女の訴えよ」
「いや、それはない」
だが、それは死を招く言葉であった。次の瞬間、タツキの素早い裏拳がクリスの腹に入る。本人曰く手加減した攻撃であったが、悶絶してしまうほどの痛みが全身に走り、クリスはしゃがみ込む。
「な、何を」
「アタシが女だと、認めないからよ」
「女なら……殴るな」
「仕方ないわ。条件反射だもの」
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